隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

アリアドネの声

井上真偽氏のアリアドネの声を読んだ。今まで読んだ作品はミステリーばかりだったが、この作品はミステリーではなかった。

障碍者支援を前面に押し出したジオフロント都市「WANOKUNI」で、巨大地震が発生した。運が悪いことに都市地下にある地下鉄に一人の女性が取り残されてしまった。彼女は「見えない、聞こえない、話せない」という三つの障碍を抱えている。救助に向かおうにも、地下からは浸水が発生しており、地上からは途中に火災が発生している。できることは彼女を地下施設内の安全なシェルターに避難させることなのだが、どうやって彼女をそこに誘導するか。ベンチャー企業タラリアの高木ハルオはたまたまWANOKUNIのオープニングセレモニーに参加していた。タラリアは災害救助用のドローンを開発しており、最新機種のSVR-Ⅲを投入することになり、ハルオは操縦者として支援することになった。

本書を読む前は、見えない・聞こえない状況でどうやって誘導するのだろうというのが、まず第一の疑問だった。ここは物語の根幹にもかかわるところで、ハルオら救助チームはうまく切り抜けてなんとか誘導を開始するのだが、当然次々とトラブルが発生していく。面白かったのは、途中で女性の目が見えたり・音が聞こえているのではというような動きをして、助けている人々に疑問・疑念を抱かせる所だ。「それはどういうことなのだろう?どういう風に話をたたむのだろう?」と思いながら読んだところだ。当然作者はそこのところも織り込み済みでストーリを作っているので、ちゃんと説明がされていて、ああなるほどという物語の終わりだった。