隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

時計泥棒と悪人たち

夕木春央氏の時計泥棒と悪人たちを読んだ。この本は長編小説だろうと思っていたのだが、実は連作短編小説だった。タイトルにある時計泥棒の2人組が色々な謎を解くストリーになっている。収録作品は「加右衛門氏の美術館」、「悪人一家の密室」、「誘拐と大雪 誘拐の章」、「誘拐と大雪 大雪の章」、「晴海氏の外国手紙」、「光川丸の妖しい晩餐」、「宝石泥棒と置時計」7編。「誘拐と大雪」は前後編に分かれていて実質的には中編小説で、「光川丸の妖しい晩餐」も中編小説だ。

「加右衛門氏の美術館」はこの小説集の主人公である井口と蓮野を紹介するようなストーリだ。井口は画家で、蓮野は井口の友人なのだ。蓮野はかっては銀行員だったが、五日で辞め、そのあと泥棒になった。一年ほどの間に数十件の仕事をし、ついに捕まり収監された。そして出獄した後は、井口の口利きで翻訳の仕事などをしている。井口が蓮野を訪ねて相談を持ち掛けるところから物語はなじまる。井口の父親がかってオランダ王族にゆかりの置時計を加右衛門氏に売ったのだが、実は井口の父親は偽物を加右衛門氏に売りつけていた。その加右衛門氏が最近所蔵品を展示するための美術館を作り出して、井口の父が偽物だ飛ばれるのではないかと気が気ではないというのだ。彼らは本物と偽物を交換する計画を立てて美術館に侵入するのだが、蓮野が美術館の秘密に気づいてというのが第一話だ。この物語の中では蓮野が推理をめぐらして、謎を解決する構造になっている。

この小説はイケメン・長身で推理に長けた蓮野とどちらかというと助手役の井口のコンビを楽しむ小説だと感じた。「光川丸の妖しい晩餐」では東京湾上の貨物船で連続殺人事件が起きる展開になるが、それ以外はそんなに大きな事件は起きない。誘拐事件でも誘拐されたのは井口の姪なのだが、殺されたりはしない。なので、どちらかというと軽い感じのストーリーが多いと感じた。