隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

サーカスから来た執達吏

夕木春央氏のサーカスから来た執達吏を読んだ。タイトルの「執達吏しったつり」という言葉になじみがなく、何のことかと調べてみると、執行官の古い言い方の様なのだが、この小説においては借金取りの事を指している。表紙絵の真ん中に描かれているのがそうで、名前はユリ子という。時は関東大震災から2年後の1924年。ユリ子はサーカスから逃げてきて晴海商事という貿易会社を経営する実業家の晴海氏のもとでそのような仕事をしているという。ユリ子が現れたのが樺谷子爵の所で、彼は晴海氏から借金をしており、その返済が滞っていた。残金は約一万円であるが、返す宛てがない。ところがユリ子は絹川子爵がどこかに隠したと言われている100万円の宝物を探し出して、それを樺谷子爵の借金返済に充てるというのだ。そして樺谷の三女である鞠子を担保として預かっていくというのだ。

樺谷子爵の借金返済のために宝物を探すのはユリ子で、その担保に娘の鞠子を人質にするのは話しとしても妙な論理だが、実際ユリ子は鞠子を連れて行った。絹川子爵は宝物を隠すときに絹川家のものにしかわからない暗号を残していて、当面はその暗号を探すことが第一の目標となる。

この小説の大部分の語り手は鞠子になっている。更に鞠子の口調は、いわゆるお嬢様言葉で、その部分だけみると少女小説のような感じなのだが、宝物を探すための暗号が出てきたり、宝物捜索をめぐって殺人事件も起きたりして、内容はミステリー風の冒険小説になっていて、何とも不思議な小説だ。この小説に出てくるような暗号は今まであまり見たことがなかったので、新鮮だった。