隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ベーシックインカム

井上真偽氏のベーシックインカムを読んだ。テクノロジーを題材にした日常のミステリーの短編集。5編収録されており、それぞれのタイトルは「言の葉の子ら」、「存在しないゼロ」、「もう一度、君と」、「目に見えない愛情を」、「ベーシックインカム」となっている。最初の2編はネタバレせずにあらすじを書くのが難しい。「言の葉の子ら」は園児の言葉からその家庭に潜む問題を推理する話で、「存在しないゼロ」は雪に閉ざされた孤立した家屋で死体で発見された旦那はなぜ腕を損壊していたのか?「もう一度、君と」はVRゲームをしていた妻が失踪したのはなぜか?「目に見えない愛情を」は人工視覚の移植にまつわる父と娘の物語なのだが、これもネタバレせずにあらすじを語るのは難しい。最後の「ベーシックインカム」はあまりベーシックインカム自体は事件には関係ない。これも倒叙トリック的になっているのであらすじを書くのは難しい。

今までの作品とはちょっと趣が変わっていて、テクノロジーを題材にしているところが、あまりミステリーぽくないのでこれらの小説をSFとして読むことも可能だろう。ベーシックインカムでは前の4編を登場人物が書いているようなことが書かれていて、そういうまとめにするのかと思ったら、本書にある実際の短編と登場人物が書いた短編は内容が全く違うものだということが最後に明かされている。これぐらいは書いても謎には直接関係していないから大丈夫だろう。