隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

黒牢城

米澤穂信氏の黒牢城を読んだ。

天正6(1578)年10月、荒木村重有岡城に籠城し、突如、信長に対して反旗を翻した。黒田孝高(官兵衛)は村重を翻意させるために有岡城に乗り込んだが、成功せず、城から追い払われることもなく、あるいは殺されることもなく、土牢に幽閉されてしまった。このミステリーは荒木村重有岡城に籠城している間に起きた謎を、荒木村重が調査し、土牢に閉じ込められている官兵衛に語って聞かせ、官兵衛が謎を解くのだが、ヒントしか教えず、なんとか村重が答えに辿り着くという形式になっている。米澤穂信氏がこの時代を選び時代小説の形式にミステリーを融合させるとは思わなかったので、意外だった。本作は連作短編の形式になっていて、第一章から第四章にミステリーが収録されている。

第一章の雪夜灯篭では、納戸に軟禁されていた安倍自念が明け方殺された。傷の様子からすると矢で射られたようであるが、周りに矢はなかった。第二章花影手柄では、有岡城の東に大津伝十郎が布陣した。村重は高槻衆と雑賀衆をつれ奇襲攻撃を仕掛け、成功した。村重が武者首を一つ、高槻衆と雑賀衆がそれぞれ二つづつ、計五つの首を上げた。大津伝十郎は討ち死にしたとい報があり、この中にその首があるかもしれないが、誰も大津の顔を知らなかった。第三章の遠雷念仏では、村重が使僧として用いている無辺が滞在していた庵で殺された。密室ではないが誰も外から庵に近づいたものはいなかったのにである。第四章で落日孤影では城内にいるであろう織田方に内通しているものを探そうとするのだが、杳として内通者は見つからなかった。

実を言うと第一章の雪夜灯篭を読んでちょっと違和感を感じた。確かに村重はどのようにして殺したのかという事にはたどり着いたが、なぜそのような事になったのかについては頭が回っていないのだ。そのためにちょっとモヤモヤしながら、第二章、第三章と読み進めたのだが、第四章で疑問に思っていたことが明らかにされて、意図的にそうしていたのかという事がわかって納得した。米澤氏にとっては初めての時代小説だと思うのだが、色々調べて書いているようで違和感がなかった。時代小説とミステリーがうまく融合していて、今までの作風とは全く違うミステリーになっているので、今後このような作品が出てくるのかどうかが気になるところだ。