隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

さよなら妖精(単行本新装版)

米澤穂信氏のさよなら妖精を読んだ。主な登場人物は守屋路行、大刀洗万智、白河いずる、文原竹彦、そしてマーヤ。守屋と大刀洗は雨の降る日に偶然雨宿りしていたマーヤと出会う。そこから物語が始まった。だが、語られる物語は時間軸をさかのぼることになる。マーヤはユーゴスラヴィアから日本の守屋達が住んでいた藤柴市にやってきて、2か月の時を過ごした。そして、ユーゴスラヴィアに帰っていたが、その時ユーゴスラヴィアは内戦に揺れていた。マーヤはユーゴスラヴィアのどの共和国に帰るかを告げずに、日本を離れた。ユーゴスラヴィアに帰ったら、手紙を書くと白河と約束していたが、15か月たっても手紙は届かない。

守屋と白河は過去の記憶を頼りに、マーヤがどの共和国から来たのか推理しようとする。彼女が比較的安全な共和国・地域にいれば、たとえ手紙が来なくても、安心できるからだ。大刀洗も誘ったが、「もう忘れたこと」と言って、参加しようとしない。文原も用事があるので参加できないという。守屋と白河は、守屋の書いていた日記を頼りに、マーヤとの出会いから物語を再びなぞり始める。そこで語られる物語の中に、マーヤの故郷の何らかのヒントがあるはずだから。

このストーリーは青春小説でもあり、ミステリーでもある。だから、過去の物語もマーヤの故郷のことがそれとなくちりばめられており、それをもとに守屋はマーヤの故郷を推理していく。でも、最後に待ち受けているのは悲しい現実だった。そして、今回刊行された新装版には新たに書き下ろされた短編が最後に収録されており、それはその日の出来事の直前であることが暗に示唆されている。

今回「王とサーカス」を読む前に、大刀洗万智が共通する登場人物なので、こちらを最初に読んでおいた方がいいかと思い読んだのだが、それを抜きにしても、面白いミステリーだった。あと、英語のタイトルの"The seventh hope"もいいなぁと感じた。