米澤穂信氏の秋期限定栗きんとん事件を読んだ。今回の事件は上・下と2冊に分かれていて、合わせると500ページぐらいになる。だからというわけでもないが、物語の時間も長く、前巻の夏の直後から次の年の秋までと約一年にわたる物語となっている。今回メインとなる事件は彼らの住む木良市で発生した連続放火事件だ。小鳩と小山内の互恵関係は前巻で終了した。もっとも彼らの高校の一部では二人は別れたと認識されているようだが。関係が終了しているため、今回の事件では、この二人は殆ど接触せず、物語の最後の方で直接対話が行われる。
今回は船戸高校の新聞部の瓜野という1年生が物語を牽引する役割を担う。彼は学校新聞である「月報船戸」に不満を持っていた。というのも紙面構成が校内の年中行事の記事を書いているだけで、前例通りで、なんの新しさもないからだ。それで彼は何とか学校外のことも記事にしようと会議で提案したが、却下されてしまった。しかし、瓜野は諦めなかった。この瓜野と小山内ゆきがたまたまめぐり逢い、付き合うことになる。そして、小山内は瓜野を応援するというのだ。一方小鳩の方にも新しい恋人ができて、デートもするのだが、相変わらずデート中でもちょっとした謎を解いてしまっている。瓜野は学校新聞に木良市の連続放火事件を学校新聞にねじ込み、やがて次の放火場所がどこか予想し、それがあったってしまうのだった。
瓜野が放火犯であれば、予想できるのは当然だが、そのような伏線はない。彼の言う通りの場所で放火は起きるのだが、本当に犯人の意図を読めているのかというのが本ミステリーの最大の肝だろう。小山内も応援すると言っていたのに、途中から何かおかしな感じに見えだしが放火犯人とも思えない。当然小鳩は放火犯人ではないだろうし、では一体誰がという感じで物語は進んでいった。謎解き部分を読んで、なるほどと思った。アリス連続事件の「連続殺人の論理」のように瓜野は「連続放火の論理」にとらわれてしまったというべきか。それと小山内がなぜ途中からおかしな行動をしたのかも、そういう事かと納得がいった。やはり小山内ゆき恐るべし。