隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

最後の鑑定人

岩井圭也氏の最後の鑑定人を読んだ。本書は民間の法科学鑑定会社を営む土門誠を主人公にしたミステリーだ。土門誠は警視庁の科捜研にいたがある事件の鑑定をきっかけに警視庁を辞め、土門鑑定事務所を立ち上げた。刑事・民事を問わず中立的な立場で科学鑑定をしている。土門は鑑定の腕は超一流なのだが、愛想が全くなく、無駄なことを極端に嫌う。本書は短編集で、「残された痕」、「愚者の炎」、「死人に訊け」、「風化した夜」の4編が収められている。

土門が警視庁のある事件の鑑定をきっかけに科捜研を辞めたことは、最初の「残された痕」で少し触れられるが、最終話の「風化した夜」でなぜやめることになったのかが深く語られることになる。

「残された痕」はDNA鑑定の話で、STR法、Y-STR法というのが出てくる。Y-StR法というのはY染色体を用いた分析方法で、こちらは一致するが、STR法では警察の鑑定に疑念があるというような検査結果が出てくる。この時点で、犯人は目星がついたのだが、当然というか動機はわからない。その動機は結構ぶっ飛んでいると思った。

「愚者の炎」は火事現場の鑑定に関する話で、犯人は逮捕されているのだが、黙秘して何も語らない。地方裁判所のベテラン判事からの依頼で火事現場を検証し、2回火災が起こったことが判明する。なぜ2度も焼いたのか。これはなかなか面白かった。

「死人に訊け」は相模湾から引き揚げられた軽自動車内に白骨死体があり、更に社内には12年前の強盗殺人事件の盗品もあった。土門が行った鑑定結果から白骨死体の身元にきれいにつながっていく様はちょっと出来過ぎているという感じもある。

「風化した夜」は海岸で女性の遺体が発見され、自殺とみなされた。その母親は娘が亡くなった理由を知りたいと鑑定事務所にやってくる。その女性は元刑事で土門が警視庁を辞めるきっかけとなった事件を担当していた。必然的に事件を再調査することになるのだが、思わぬところからヒントが出てきてという感じで進む。結局元刑事の女性は自殺だったのかどうかはっきりしない終わり方だった。

この小説は色々な鑑定が出てきて、面白かった。そのような事も鑑定からわかるのかとちょっと驚いた。この作品はシリーズ化しないのだろうか?