隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

付き添うひと

岩井圭也氏の付き添うひとを読んだ。

タイトルの付き添うひと(付添人)とは何かというと、犯罪を犯した少年が家庭裁判所で審判を受けるときに、少年の権利を擁護・代弁し、手続きや処遇の決定が適正に行われるように裁判所に協力する人で、通常は弁護士がなるようだ。このような役割の人がいるという事は全く知らなかった。この本は連作短編になっており、「どうせあいつがやった」、「持ち物としてのわたし」、「あなたは子どもでも大人」、「おれの声を聞け」、「少年だったぼくへ」の5編が収録されている。

この小説の主人公は朧太一という弁護士。外見にはあまりこだわらず、髭のそり残しも見える冴えない感じのアラフォーの弁護士。彼は子供の頃意味も分からず母親に言われるがままに空き巣を繰り返し、補導されて、少年院に送致された経験を持つ。そんな異色な弁護士だ。彼は自分の過去のことがあるから少年たちには立ち直ってもらいたいし、立ち直るためには何が最善かを考えて行動している。

「どうせあいつがやった」はホームレスへの傷害事件で逮捕された少年の話。この短編のストーリは何となく想像がついた。「持ち物としてのわたし」はおやじ虐待されている少女の話。本人からの申告で子供シェルターで保護したのだが、調べてみると実態とは違っていてというストーリーになっている。これは小説だけれども、実際にもありえそうな感じに思えた。「あなたは子どもでも大人」はプチ家出を繰り返して補導された少女の話。その理由は父親との折り合いが悪いことなのだが、最後の最後でそうなるかというオチが待っていた。「おれの声を聞け」は引きこもりの少年が起こしたネットでの誹謗中傷事件。少年がディスクレイシアではないかということがストーリーに関係してくるが、ディスクレイシアもあちらこちらで取り上げられているような気もするので、もうひとひねりあってもいいのではと思った。「少年だったぼくへ」は親が自分が経営する会社の金を使い込んで逮捕された少年の話。親がなぜそのような犯罪を犯したのかと悩む少年の姿と朧の少年時代がダブるようなストーリーになっている。このストーリーの中に今まで登場した人物のその後のエピソードが挿入されている辺りは、まさに最終話という感じがした。