隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

夜果つるところ

恩田陸氏の夜果つるところを読んだ。鈍色幻視行の中で言及されている小説で、飯合梓が書いたことになっているが、流石に本当の外側のカバーは恩田陸著、集英社刊になっているが、中を見ると、飯合梓著、照隅社刊になっている。

ジャンル分けがよくわからない小説だ。殆どが子供の頃を回想して、当時の生活を語っている場面が続いてく。当時私は遊郭のような待合のような館に住んでいた。その館の名前は墜月荘といい、山の中にあった。育ての親の莢子に言わせれば、ここは夜が始まる所だった。だからなのか、私には太陽を見た記憶があまりない。生みの母は和子。そして、名義上の母は、墜月荘の女将の文子だった。私には三人の母がいた。生みの母の和子は心の病を抱えているようで、意思疎通は難しそうだ。莢子は勉強を教えてくれた。文子は何を考えているかわからないので苦手だった。

この墜月荘では夥しい血が流れることになる。それはおいおいわかるのだが、この物語がいつの時代のことなのか語り手は一切明らかにせず進んでいく。その理由は、語り手自身がいつからここにいるのかわかっていないというのもあるだろう。子供の時代は昭和11年にあることが起きて、唐突に終わりを遂げる。そこに至るまでは読者は話がどう進むのか全く分からないと思う。カーキ色と十把一絡げに呼ばれて陸軍の軍人が何やらこの墜月荘に出入りし、何かの密事を画策しているようなのは想像がつく。しかし、語り手が10歳ぐらいの子どもになっているので、子供の視点からは何が起こっているかわかりようがなく、当然説明もできないまま時が流れていくだけだ。カーキ色は頭のねじの緩んだり、外れいる者が多くいて、それによって血がなれることも起きる。また、内縁の妻がありながら、若い女を身ごもらせ、そのせいで墜月荘に逃げ込んでいる小説家などのエピソードが綴られていく。このエピソードも血塗られている。

そうして、最後の所で墜月荘に終わりが来るのだが、全体として退廃的で暗いストリーだった。正に墜月荘は夜が始まるところだ。