隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

鈍色幻視行

恩田陸氏の鈍色幻視行を読んだ。事故・事件により2度の映画化が頓挫し、その後の2度の映像化も問題が発生して、製作途中でお蔵入りしたいわくつきの小説「夜果つるところ」の関係者がクルーズ船に乗り、横浜からベトナムまでを往復する旅に出る。その旅に関係者の親戚の妻として参加した蕗谷梢は作者の飯合梓について本を書こうとしている。梢は関係者と対話しながら、「夜果つるところ」、そして作者の飯合梓について考察していく。物語上いくつか謎が提示される。作者の飯合梓とは何者なのか?2度目の映画化の時に心中した二人はなぜそのような事をしたのか?3度目の映像化時の脚本家はなぜ自殺したのかなどなど。読み始めて、同じ著者の「木曜組曲」を思い出した。ただし、この作品は映画を見ただけで、小説は読んでいないので、映画と小説の内容が異なっているかもしれない。「木曜組曲」は薬物自殺した小説家がなぜ自殺したのか、本当に自殺なのかを関係者である4人の女が互いに駆け引きしながら語り合うという内容で、これもミステリー的だが状況証拠しかないので、決定的な答えは出ない。そういう意味で、この小説に似ていると思う。この小説でも、色々な解釈が出されるが、なんせ映画化の事故からも蕗谷梢が失踪してからも時間が経過し過ぎていて、明確な答えは出ていない。この小説は読者を選ぶ作品だと思う。

この小説は2007年から連載を開始し、2022年に終了しているので15年にわたって書き続けていたことになる。愚かな薔薇 - 隠居日録も14年の連載で、よくこんなに長く連載できたと思う。この小説に出てくる「夜果つるところ」を作者は別作品として書いているので、そちらも読もうと思っている。それと、木曜組曲も小説を読みたくなった。