隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

木曜組曲

恩田陸氏の木曜組曲を読んだ。耽美派小説の大家重松時子は木曜日が好きだと言っていた。その時子は2月の第二週の木曜日に亡くなり、それ以来毎年その木曜日を挟んで3日間、時子をしのぶために時子が住んでいたうぐいす館に集う女たち。時子の異母姉妹の静子。静子の母の妹の娘の絵里子(つまり、静子の姪)、時子の弟の娘の尚美(つまり時子の姪)、尚美の異母姉妹のつかさというちょっとややっこしい人間関係。それと時子の担当編集者で、今もうぐいす館に住んでいるえい子の5人が、このミステリーの主な登場人物だ。時子が亡くなって4年がたった今年、フジシロチヒロなる人物から「皆様の罪を忘れないために、今日この場所に死者のために花を捧げます」というメッセージがついた花が届いた。フジシロチヒロは時子の蝶の棲む家の主人公で、妹に殺された。そして、静子が「私が時子姉さんを殺したんだわ」という告白から謎解きが始まっていく。

今回小説を読み終わった後に、映画を見返したのだが、かなり記憶があやふやになっていた。映画では女性たちの飲食の場面が印象に残っていたので、そのシーンから始まっていたように思っていたのだが、実際には時子が死んだところから始まっていた。このシーンは小説にはない。物語は告白、告発、新発見などを通して、自殺と他殺の間をいったりきたりしながら進んでいく。記憶を頼りに状況証拠を積み重ねる辺りは鈍色幻視行 - 隠居日録にやはり似ている思う。ただこちらは明らかに一人死んでいるというところがサスペンスとして物語がよりくっきりとしていると思う。

作中で編集者のえい子が「全く、あんたたちときたら。頼むから処分する前にあたしに読ませてちょうだいよ」というところがおかしかった。えい子以外の4人は文章を書くことを生業にしていて、書かずにはいられない。そして、えい子は編集者として読まずにはいられない。映画も小説のストーリーをほぼなぞりながら進んではいくのだが、時子とえり子の過去のシーンが挿入されていて、小説でははっきりと書かれていないことを明確にして、違う解釈になっていた。そのことは時子が好きな二月の第二木曜日に亡くなったことから察せられるのだが、これはうがった見方かもしれない。ただ、時子とえり子の間で何かはあったのではと妄想してしまう。なので、おかしかったのだが、実はここのところは物語上重要な場面ではないかとも思う。