隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

スキマワラシ

恩田陸氏のスキマワラシを読んだ。

この作品は、「スキマワラシ」と「僕のアレの力」と「タイル」の物語だ。スキマワラシとは隙間童子のことだが、もっともこれは登場人物の纐纈太郎の造語だ。座敷童子は家に憑くものだ。一方スキマワラシは人と人の記憶の間に住みつくのだ。そして、それは忽然と幼い少女の形を伴って現れてくる。今にも取り壊されそうな建物の工事現場に。「僕のアレの力」とは本作の主人公の纐纈散太の持つ力のことで、ものに宿っている思念を感じる力だ。それは不意にやってきて、たまたま触れた物が宿している思念が体の中に流れ込んできて、そのイメージを感じることができる力なのだ。そして、最近なぜかこの力がある種の「タイル」に触れたときに強く発動することが多くなり、しかも強烈なイメージが流れ込んでくるようになった。そして、このタイルがもたらすイメージがスキマワラシにつながっていくのだ。

これは純粋にファンタジーで、なぜこのような不思議な思念を感じる力があるのか、スキマワラシは何なのかという事は一切明かされないし、明かす必要もないのだろう。不思議なことをそのまま不思議なこととして受け入れていけばよいだけだ。この物語は一見まとまりがないようなエピソードが連ねられているが、最後の最後の所でまとまっていくというそういうストーリーになっている。ページ数は470を超えているが、一気に読み進めることができた。