隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

十三夜の焔

月村了衛氏の十三夜の焔を読んだ。天明から天保へかけて50年以上の時間スケールで活写する時代小説。天保四(1784)年五月の十三夜の夜に幣原喬十郎は匕首を手にした男と側に倒れる男女を見た。倒れている男女は血に塗れていて、見るからに殺されたと思われた。そして、その男は両眼から涙を流して泣いていた。喬十郎は男を取り押さえようとしたが、身の軽い男は用水桶から町屋の軒に飛び上がり、暗がりの中に溶け込んでいった。それが喬十郎と盗人千吉の出会いであり、そこから50年以上の物語が続いていく。

幣原喬十郎は先手弓組に属しており、本来の務めの傍ら取り逃がした男を探査することになる。第一話の「十三夜の邂逅」では逃げた男は千吉という名前で、大呪の代之助という盗人の親方の下にいることが分かり、根城に踏み込んでみたのだが、既に町方の取り手が包囲していた。しかも、根城にしていた宿屋で火事が起き、千吉にまたしても逃げられるというところで終わる。以降数年から十年程度の間隔をあけながら、この二人の戦いが描かれていくのだが、その背後には何らかの企みがあるということが徐々にわかっていく筋書きで、読んでいて飽きさせない。そして、二人の関係もなかなか面白くなっていく。ちょっと不思議だったのが、もう一人手練れの浪人が暗躍していて、その男も喬十郎の前に敵として何度も現れる。その男の最後がちょっとあっけないというか、なぜそうなったのかがちょっと解せなかった。