隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

野火の夜

望月諒子氏の野火の夜を読んだ。血の付着した旧型の五千円札があちらこちらから出てきた。ただ血が付着しただけの五千円札だけなら、犯罪の匂いがするが、それだけで罪には問えないだろう。しかし枚数が増えてきて、総額200万円となり、番号もそろっているとなるとかなり犯罪に関係しているような感じがする。ところがである。池袋のビルとビルと間で死体が発見され、遺体の身元が森本賢次だと翌日判明すると、雑誌フロンティアがにわかにあわただしくなる。というのも、「モリモトケンジという名前を覚えておけ」という匿名のタレコミ電話があったのだ。

このようにして事件が始まり、記者の木部美智子がこの事件を調べていくと、とてつもなく古い所にこの事件の萌芽があり、複雑に絡み合った人間関係が見えてくるという物語だ。主人公の木部美智子が終わりの方で、庭の手入れをした時の話をする。それはこんな話だ。「最後に木の根を抜こうとしたら抜けないことに気がつく。どう頑張っても抜けない。そこで根を探るのですが、土の中で雑草や隣の木の根と絡み合って、どこまでがその木の根なのかもわからない。絡まったものを一つひとつ切り取って初めて、木の根が現れるのです」まさにこの通りで、複雑に絡み合っていて本当に何があったかは最後の最後まで読まないとわからない。まぁ、純粋な謎解きとしてのミステリではないので、わからなくても当然なのだが。

この小説で事件の萌芽は満州にあるという事で、登場人物の満州時代の日記が挿入されていて、そこにも書かれてい。また、沖縄戦とか、先日放送されたNHK BS1の「"玉砕"の島 語られなかった真実 [前]テニアン島/[後]サイパン島」でも語られていたが、日本兵がいたために一般民間人に犠牲者が出たという話がある。乳幼児がいると、泣き声で米兵に位置を知られるから、母親に子供を殺せというのだ。また、「生きて虜囚の辱めを受けず」を民間人にも強要して、集団自決に追いやるのだ。この小説の本筋とは直接関係ないけれど、日本兵の所為でどれくらい無駄に命が失われたのかを考えると、やるせない。