隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

揺籃の都

羽生飛鳥氏の揺籃の都を読んだ。これは蝶として死す - 隠居日録の第二作目で、今回の時間軸は治承4(11890)年の福原遷都の直後に巻き戻る。平頼盛平清盛からある人探しを命じられた。それは源雅頼に仕える青侍で、この青侍が不吉な夢の噂を広めていることに関係している。その不吉な夢とは平家が信仰する厳島大明神が神々の議定から追放され、平家が預かっている節刀を源氏の氏神八幡大菩薩が受け取り、藤原氏氏神の春日大明神が欲しがっていたという内容だ。清盛曰く「これは厳島大明神が授けた銀の蛭巻の小長刀が失われて、厳島大明神の加護が消え、一門が凋落するとのお告げのようだ」。その青侍を捕縛しようとしたのだが、逃げられたので、頼盛に見つけて欲しいのだという。頼盛は早速探索に取り掛かり、なんとか青侍を見付けて追跡すると、清盛邸に逃げ込んだと思われた。頼盛は清盛に邸内の探査の許しを得るのだが、清盛は頼盛に碁をしようという。何とも暢気なことだ。そうこうしているうちに雪が降ってきて吹雪になったので、頼盛は清盛邸に泊まることになったのだが、その夜奇妙なことがいくつも起こった。まず、件の小長刀が消失した。そして、夜中に化鳥が出たと騒ぎになった。そして、翌朝青侍がバラバラに切断された死体で発見されたのだ。

今回は短編集ではなく、長編になっている。相も変わらず頼盛は平家の中で貶められる役回りのようで、清盛だけではなく、息子の宗盛、知盛、重衡からもあれやこれやとからかわれたり、嘲笑されたりしている。頼盛の落ち度を見付けて、官位を剥奪しようと画策している彼らは、挙兵した頼朝とも通じ合っているのではないかとあらぬ嫌疑をかけてくる。

実は本作にはもう一つ謎が出てきて、それは密室に関係するものになっているのだが、如何せん平安時代の建築物には疎いので、今一つピンとこなかった。これは作者が悪いのではなくひとえに読み手の問題だ。それと、穢れについても、なんと各ピンとこなくて、当時の人は本当にそんなことを恐れていたのかと疑問が浮かんでしまう。なんとなく長編より短編の方が面白かった感じがする。