隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

蝶の墓標

弥生小夜子氏の蝶の墓標を読んだ。本の表紙の裏のあらすじには、

数年前奇妙な自殺を遂げたかっての同級生の死の調査をする中で、

自殺した少年・要は夏野の痣の絵を描いたという理由でいじめを受け、それを苦に自殺を選んだと思われていた。

というようなことが書かれている。だが、物語はシングルマザーの八木里花が彼女にとっては莫大な額の遺産の相続人になったことを弁護士から告げられることから始まる。遺産を彼女に残したのは腹違いの姉夏野の母親で、夏野の自殺事件を調べ直すという事が相続の条件だった。この夏野はあらすじにある痣のある少女だ。相続する不動産で死体が発見されたことも明かされ、その死体は近所の小学校の教師であることもサラリと明かされている。さて、事件の調査の依頼をされた八木里花は刑事でもなければ探偵でもない。事件を調べ直すといってもどうするのかと思っていると、続く第二章では時間がぐっとさかのぼり、夏野が小学校の頃に飛ぶ。しかし、物語の語り手は新田瑞葉という少女に代わり、以下彼女の視点で物語は進行していく。

第二章では小学校時代の夏野、瑞葉のことが簡潔に語られ、最後には要の死体が発見されるところで終わる。そして、第三章で自殺事件から数年後に時間が未来に飛び、高校生になった瑞葉の前に夏野が現れ、要の自殺事件を調査し始めるのだ。この物語は、要の事件の真相を探る物語であり、夏野の復讐劇でもある。そして、事件を調べていくうちに新たな悲劇が起こり、その謎を解くミステリーでもある。実は夏野の母親の残した資料を調べ直すのが八木里花の役割の様なのだが、その資料の中に謎めいた暗号のような文章が残されていて、それも物語のひとつのコマになっている。小説正味自体は230ページぐらいなので、そんなに長くないのだが、色々なことが織り込まれて飽きさせない構成になっていて、非常に面白かった。