隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

レモンと殺人鬼

くわがきあゆ氏のレモンと殺人鬼を読んだ。本書はミステリーというよりはサスペンスなのだろう。小林美桜は妹の妃奈が遺体で発見されたことを警察に告げられた。しかも妹は全身を数十カ所刺されて殺されたらしい。美桜にとっては家族が殺されたのはこれで2度目だった。10年前父親が少年に通り魔的に殺されたのだった。父親は洋食屋を営んでいたのだが、その父親がいなくなったことにより経済的に困窮し、しかも母親が失踪してしまったことから、美桜と妃奈は別々の親戚に引き取られた。妹を殺されただけでも美桜にはショックだが、その後妹には保険金殺人の噂が出てきて、マスコミが付きまとい始める。美桜は何とか妃奈の汚名を返上しようと行動を開始した。

妹の妃奈を殺したのは誰なのか?妹は生前本当に保険金殺人に関係していたのかがまず読者に投げかけられる謎だ。その調査の手伝いを買って出たのが、中学の同級生の海野真凜の彼氏の渚丈太郎だった。真凜は当時美桜の容姿を笑いもにしていた。今でも笑いものにしているようだ。丈太郎になぜ調査を手伝ってくれるのか理由を聞くとマスコミ志望だからという。この男は怪しそうなのだが、調査にちゃんと協力してくれているので、全くの悪人のようにも見えない。

この小説は色々な人物が出てくるが、それぞれが色々濃いキャラクタになっていて、更に「一見善人そうなひとが実は」という感じが多い。そのため誰を信じていいの難しくなっている。また、ところどころに挿入される過去のエピソードがミスディレクションになり、読者に誤った認識を植え付けているので、作者の罠にまんまとはまってしまった。作者がはっきり書いていないので、読者が勝手に解釈してしまうように書かれているのだ。また、美桜が不遇な状況にめげず懸命に頑張っていると思いきや、純粋にそうとも言えないことがわかると、ある種イマミス的な展開にもなってきた。純粋なミステリーとして読むと、謎は解決できないけれど、二転三転する犯人を楽しんで読む分には非常に面白い。