隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

動くはずのない死体

森川智喜氏の動くはずのない死体を読んだ。これは短編ミステリーで、「幸せという小鳥たち、希望という鳴き声」、「フーダニット・リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」、「動くはずのない死体」、「悪運が来りて笛を吹く」、「ロックトルーム・ブギーマン」の5編が収録されている。

まず読んだのが、表題作の「動くはずのない死体」なのだが、「これはいかがなものか」という感想を持った。夫婦喧嘩のはずみで夫を殺してしまった妻が、ちょっと目を離したすきに、異変が起きた。そして、「なんであんたがここにいるの?」と妻がいい、タイトルがこれなので、死体が移動したと思うだろう。ネタバラシになるが、そういうストーリーではない。最後まで読んでも、納得のいかないストーリーだった。

次に読んだのが、一番の最初の「幸せという…」でこれも取り立ててどうという感じがしなかった。ちょっとこの辺りで、読み続けるかどうか考えてしまったが、「フーダニット…」は面白かった。高校生の弟が探偵小説家の兄の仕事場に入り、コーヒーをこぼして、原稿が汚れてしまった。何とか回復を試みるが、一部読み取れないところが出てきて、原稿が虫食い状態になる。兄が戻ってくる前に、なんとか意味が通じるように原稿を手直ししようとするストーリーになっている。弟とその同級生が推理するのだが、出だしからして間違っていて、どうなるのだろうと思ってしまった。最終的な着地点は見事だった。

最後の「ロックトルーム…」も面白かった。これはブギーマンが実際に存在しているという特殊設定物。しかも、警察官がブギーマンと人間のハーフという設定で、主人公の警察官だけがブギーマンの犯行だと知っているという縛りがあり、その状況でどのように犯人を捜すのかというストーリーで、これは特殊設定とストーリーがちゃんとかみ合っているので、よくできていると思った。