隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

呪いを解く者

フランシス・ハーディングの呪いを解く者 (原題 UNRAVELLER)を読んだ。

この物語はラディスという架空の国が舞台のファンタジーだ。ラディスには<原野ワイルズと呼ばれる霧に包まれた森が隣接しており、そこには不思議な力を持つ生き物が暮らしている。特に厄介なのは蜘蛛に似た<小さな仲間>で、この生き物は人間に呪いの力を与えるというのだ。誰かを強く憎むことがきっかけで、<小さな仲間>により「呪いの卵」がもたらされ、それがやがて呪の力を持つ「呪い人」を生み出してしまう。呪い人は憎んだ相手を別な生き物や物に変える力を持ち、恐れられている。この国にある政務庁は<原野ワイルズを排除すべく100年前に行動を起こしたが、結局混乱をもたらしただけで、原野と和平を結ぶしかなかった。以来協定は守られている。

この世界にひょんなことから呪い人の呪いを解ける者が現れた。それが15歳の少年のケレンである。ケレンは呪を解くことを商売にしているようなのだが、そう簡単に呪は解けない。呪いの原因がわからないと解けないのだ。ケレンに呪を解いてもらった同じく15歳のネトルがコンビを組んで、呪解きをしているのだが、彼らはとんでもない陰謀に巻き込まれていく。

この小説を読んだ第一印象は特殊設定ミステリー的だなと思ったことだ。この小説はミステリーではないけれど、この小説の舞台になっている世界のルールが後々ストーリーにがっちりとかみ合ってくるというところがそのように感じられた。ワイルズ内でしてはいけない事とか、契約書は絶対に守らなければならないとかなど。それを破るととんでもないことが起こる。それと、英語のタイトルのunravellerが二重に意味がかけられているところが、よく考えられたタイトルだと思った。そのまま日本語にはできないタイトルだ。英語のunravelleの意味は次のようなものだ。

  1. to separate or disentangle the threads of (a woven or knitted fabric, a rope, etc.).
  2. to free from complication or difficulty; make plain or clear; solve: to unravel a situation; to unravel a mystery.

1の方は呪をもたらすのが蜘蛛のような生物で、その糸を解きほぐすことに呪いを解くことをなぞらえているのだろう。そして2のほうはケレンが呪われている理由がわからないと、呪を解けないというところとつながっている。

訳者あとがきによると、作者はヨーロッパの神話やおとぎ噺に出てくる呪われた人になぜ呪いということが起きたのだろうという疑問から、この物語を発想したようだ。物語の最初の方で、作者はケレンに「呪い人はたいてい歪んだ正義感の持ち主だ」と言わせていて、呪い人は全くの悪人だとケレンに言わせているが、後半になると、呪い人も呪われる人もそうなる理由があるという風に考えが変わっていき、単純にどちらか一方が全くの悪人というわけではないことに気付いていくようになっている。もっとも、理由があるからと言って、他人を呪っていいわけではない。今回の物語は最後の方に来てもなかなか決着がつかなくて、この戦いはどのように終結するのだろうと思いながら読んだ。本当の最後の最後までどうなるかわからなかった。