隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ガラスの顔

フランシス・ハーディングのガラスの顔 (原題 A Face Like Glass)を読んだ。今度の物語の舞台は地底都市カヴェルナで、全くの架空の世界で展開するファンタジーになっている。地底世界に住んでいる住人は自然な顔の表情というものがなく、作られた表情を覚えて表現するしかないのだ。そこの住人であるチーズ工房の親方のグランディブルの所に迷い込んだ少女は他の住人とは違っていた。彼女は生まれつき心で思っていることがそのまま顔の表情に出るのだ。その少女はネヴァフェルと名づけられ、顔のことは親方により隠され、親方の弟子として暮らすことになった。そして、ネヴァフェルが誰かに会うときは顔のことが知られないように、仮面をつけてすごしていた。ある時親方が宮廷からスタックフォルター・スタートンというチーズの注文を受けたことから騒動が始まり、ネヴァフェルは大きな陰謀に巻き込まれていくのだった。宮廷に集うエリート層は互いに反目しあっていて、このカヴェルナを治める大長官を暗殺しようとする動きもあるので大長官は非常に猜疑心が強い。

ネヴァフェルの顔の表情が心の反映であるという事は嘘をついてもバレてしまうという事なのだ。顔は心を映し出している鏡のようなものになっている。それと比べてこのカヴェルナの住人は嘘をついても顔に出ないので、嘘をついているかどうかわからないのだ。このコントラストが物語を牽引する一つの仕掛けになっている。もう一つの仕掛けはネタバレになるので詳細は明かさないが、それも嘘をつくことと若干関係がある。また、ネヴァフェルはある日突然グランディブルのチーズ工房に迷い込んだ設定になっていて、それ以前のことを覚えていない。一体ネヴァフェルはどこから来た何者なのかというも物語の重要な鍵でになっている。カヴェルナで起きている陰謀とネヴァフェルの出自の謎が混然と一体となってクライマックスを迎える構成になっているのだが、最後の最後の所で仕掛けられて仕組みがちょっと唐突で、完全にはストーリーが追いきれなかった。

「時間脱」とか「虫とりランタン」というこの物語独特の言葉があるのだが、英語ではどのような単語になっていたのか気になっている。「時間脱」は体内時計と実際の時間にずれが生じることだけれど、英語の単語ではどうなっているのだろう?時差と似ているのでxxx-lagとかなのだろうか?「虫とりランタン」といのが灯だということは分かるのだが、なぜ「虫とり」なのかがよくわからなかった。最初は殺虫用の何かだと思ったが、この世界は地下にあるので常に何らかの灯が必要だと気づいた。でもなぜ虫なのだろう?