隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

名探偵と海の悪魔

スチュアート・タートンの名探偵と海の悪魔を読んだ。タートンは非常にトリッキーな「イブリン嬢は7回殺される」でデビューした作家で、本作は第2作目だ。「イブリン嬢は7回殺される」と比べると「名探偵と海の悪魔」はオーソドックスなつくりになっていて、舞台はほぼ船の上というある種のクローズドサーキットものになっている。

時代設定は17世紀の頃、オランダの東インド会社の総督がバタヴィアからアムステルダムに戻ることになり、船で出港したのだが、出港の前に港で不吉な言葉を病者から投げつけられた。「ザーンダム号の貨物は罪であり、乗船するものすべてに無慈悲な破滅がもたらされるであろう。この船が、アムステルダムに到着することはない」。病者はその言葉を発した後、炎に包まれ焼け死んでしまった。また、後で分かったことだが、この病者は舌を切り取られており、言葉を発することはできなかったはずなのだが、どうやって言葉を発したのだろうか?やがてトム翁という名前でオランダでは知られていた悪魔がこの船を狙っていることも判明する。そして、トム翁に何らかの関わりのあるものが多数この船に乗船していることも明らかになった。

この小説は2段組430ページほどあり、結構長い。そのためなかなか物語が進まないのだ。最初はトム翁の謎、トム翁からの何らかの呪いの予兆のようなものの調査が主たるテーマになっている。しかし、有名な探偵であるサミー・ピップスは何かの罪でとらえられており、オランダに護送されることになっていて、探偵なのに調査も捜査もできない。ピップスの助手兼護衛のアレント・ヘイズが捜査を行い、ピップスがアーム・チェアー・ディテクチブ的に何か助言して、事件を解決するのかと思ったが、そういう展開にもならない。船には何か秘密の積み荷があるようなのだが、それも1種類だけでなく、2種類あるらしく、それらが何なのかなかなかわからない。とにかく、展開が非常にゆっくりしているので、辛抱強く読まないといけない小説だった。なんせ、半分まで行っても誰も殺されていないぐらい展開がスローだ。あまり内容に触れるとネタバレになるので書かないが、ストリーに散りばめられた謎は最後では解決されるので、構造としては普通のミステリーで、前作のようにSF的な展開はない。