隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

Q

呉勝浩氏のQを読んだ。

ミステリーだと勝手に思って読み始めたのだが、ミステリーではなかった。では、どのようなジャンルの小説かというと一言では言い表せない。ロク、ハチ、キュウという血のつながらない姉妹弟がストーリーの中心だ。彼らの父親の町谷重和は3回結婚をし、妻の連れ子が睦深(ロク)、亜八(ハチ)、侑九(キュウ)で、彼らには血縁関係はない。侑九の母親は7年前に失踪してしまったことになっているが、実は殺されて、死体は発見されないように処分された。小説の中では誰が殺したのかは物語の前半で明らかになっているのだが、動機がよくわからない。というのも、小説の中で圧倒的にページを割いているのはハチに対してで、次にキュウだろう。ロクの部分もあるが、ロク自体は信用のおけない語り手のようでもあり、全く何を意図しているのかよくわからなかった。

キュウはその外見とダンスの才能によりSNSから爆発的に人気が出る。そのサクセスストーリが物語の一つの軸にはなっている。そして、キュウの売り出しに一役も二役も買っているのが百瀬という男で、最初の方でのロクの口ぶりでは飛んだ変態野郎のような印象を受けたのだが、とんでもない変態は彼らの父親の町谷重和の方だった。ロクと百瀬は事務所を立ち上げてキュウの売り出しに協力するのだが、ロクの百瀬に対する変節も何の説明の無いのでよくわからなかった。キュウを売り出すためにはなりふり構わないという事なのだろうか。

物語の最後の所も結局キュウはどうしたかったのかがわからなくなるような場面だった。侑九の母親殺害の本当の動機も明らかにされていないが、案外物語の後半で父親の重和が語った推理が正鵠を射ているないかと思える。結局この小説ははっきりしないことが多くて、私には合わなかったようだ。