隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

爆弾

呉勝浩氏の爆弾を読んだ。物語は冴えない中年の男が警察で取り調べを受けている所から始まる。名前はスズキタゴサク、年齢49歳。酒屋の自動販売機をけっているのを止めに入った店員を殴り捕まった。本人曰く、家で缶チューハイを飲みながらジャイアンツ―ドラゴンズ戦をテレビて見ていたら、ドラゴンズがぼろ負けして、ムシャクシャして、更に酒を飲みたくなり、買いに行ったが、ポケットに財布がなく、目の前の自販機にあたり散らし、止めに入った店員を殴ったらしい。取り調べの刑事曰く、店員は「自販機のへこみと治療費を払えば」事を荒立てるつもりはないという。10万円も払えば何とかなるのではないかと刑事は言うが、スズキはお金がないという。

ここから話はどんどんあらぬ方向に進んでいく。スズキは刑事にお金を貸してくれと頼むが、断られ、その後、自分は霊感があり、10時ぴったりに秋葉原の方で何かが起こるような気がすると言うのだ。男の言う通り、10時に秋葉原で爆発事件が発生した。スズキは自分は霊感を感じて伝えているだけで、犯人ではないと言い張るのだが、そんな言葉を信じるわけにいかない警察とスズキの対決がこの後続いていく。爆弾はまだあるというのだ。

この謎の男スズキは実に饒舌だ。よくわからないゲームをしながら会話を続け、爆弾の隠し場所のヒントを小出しにしてくるのだ。そして明らかに警察に止められるのなら止めて見ろと挑発している。この警察とスズキの駆け引きも面白いが、いったいこの爆弾事件とは何なのかという大きな謎もあり、それにも警察は翻弄される。全くスズキの手のひらで踊らされているようなものだ。このスズキと警察の攻防、推理合戦は本書の一つの注目点だろう。で、どこかで警察がスズキを追い詰める展開になるのかと期待しながら読み進めるが、いつもスズキの方が一枚上手で、爆弾の隠し場所の方も、この爆弾事件とはそもそも何なのかもあと一歩のところでという展開になり、非常に読んでいて先が気になる展開だった。

物語の展開上、スズキの過去については小説では明らかにされていないが、果たしてスズキにこんなことができるのかどうかという点だけがちょっと疑問点として残り、物語の構成と物語上の説得力の板挟みのような感じがして、その点がちょっと残念だった。