酉島伝法氏の奏で手のヌフレツンを読んだ。
ちょっと形容しがたい作品だ。我々とは似て非なる世界が舞台のSFなのだが、単に世界というより違う宇宙の物語ととらえた方がいいのかもしれない。我々が知っているような原理はこの宇宙には適応できないような気がするのだ。しかも作者はこの宇宙のことに関してあまり事細かには説明しない。そのために、読んでいて異なる宇宙の物語を日本語に翻訳したような感じがした。
序では太陽が終末期を迎え蝕になり、だんだん膨張していくのを、多くの奏で手達が楽器と思しきもので音楽を演奏しててなんとか食い止めているのだろうと想像させるような場面から始まる。だが、この時点では読者には何が起きているかよくわからないだろう。楽器も焙音璃、万洞輪、浮流筒、喇炳筒、波轟筒、往咆詠、摩鈴盤、千詠轤、渾謄盤、嘆舞鈴というような名前がついていて、聞いたことがあるような感じもするのだが、それが果たしてそうなのかはわからない。
物語には太陽以外にも月とか彗星とか出てくるのだが、我々の知っている星ではなく、何らかの生命のように感じられる。太陽は地上の黄道をめぐっていて、人類にエネルギーの恵みを与えている。人類は太陽の後を彗星で追いかけ、太陽が落とす陽だまり集め、それを陽室で寝かせている。早ければ数年、長ければ数十年かけて陽分を濃縮したお陽練りや輝晶へと熟成させる。これらが彼らの燃料になる。月はなぜか太陽の後を追いかけていて、食らいつこうとしているようだが、太陽が活動的なら追いつくことはないのだろう。ヒトが暮らしているのも凹面上の大地で球地呼ばれている。また空中には毬森という無重力の空中部落が浮いている。
冒頭の場面のように、この世界の太陽は永遠ではなく、寿命が近くなると不活発になり、落としていく陽だまりも少なくなる。しかも、太陽の後を追う月が太陽に接触すると蝕が発生してしまい、太陽は活動を停止し、膨張して、冷たくなってしまうようだ。かってそのような蝕が発生し、廃墟と化した聚落から移住してきたリナニツェの一族がこの物語の主人公だ。彼らは単為生殖で繁殖する生命体のようで、十数年ぐらいで最初の子どもを設けるようだ。この辺りが我々ヒトから比べると世代が進むのが速く感じられる。リナニツェの孫の世代になると、新たに移り住んだ聚落の太陽も不活発になり、また蝕が起きるのではないかとみんなが危惧している。この物語はこの不思議な宇宙の太陽の終末と再生の物語だ。
この物語は500ページぐらいあって、3代にわたる物語なのでゆっくり進んでいく。終わりの方に近づいてもどう決着するのか見えず、最後の方はちょっと駆け足になった感は否めない。それと、音楽のことを小説で表したものはなかなかイメージしづらく、しかもよくわからない宇宙での物語なので、更に分かりにくいところも多々あった。結局最後まで読んでもよくわからないところも残ったままだった。