隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

さやかに星はきらめき

村山早紀氏のさやかに星はきらめきを読んだ。この連作短編集には5作収められているが、ジャンルとしては御伽噺に近いファンタジーのようなものだった。今から数百年未来の月が舞台で、その頃は地球は気候変動とか戦争により生物の棲めない惑星になっていた。人類は地球を脱して月や他の惑星、恒星にその生存範囲を広げていた。月にある<言葉の翼>という名前の出版社に勤める編集者のキャサリン・タマ・サイトウがこの物語の主人公だ。<言葉の翼>社の親会社は新聞社で、300周年を記念して<言葉の翼>社を立ち上げた。そして、最初の記念となるような「愛に満ちた、人類すべてへの贈り物になるような本」を出版することになっていた。キャサリンと同僚はクリスマスにまつわる物語集を出版することを思いつき、物語を収拾していく。

アラビアンナイトのように物語の中で別な物語が語られるような形式で、キャサリン達のストーリーと彼らの集めた物語がセットになって一つの章を構成している。キャサリンは名前からして猫に関係ありそうだが、彼女らは猫から進化した二足歩行のネコビトということになっている。そのほかにイヌビトとかトリビトも出てくる。物語の舞台が月面都市というところがSF的だが、そんなにSF的ではなかった。

彼女らはクリスマスの物語を集めているが、本来ならクリスマスは名前の通りキリストに関係するイベントだ。しかし、この物語では宗教的なことは一切出てこなくて、サンタクロースが子供にプレゼントを贈る日といういつの間にかクリスマスに結び付けられた方をメインにしてクリスマスをとらえている。この本を読んで、今から数百年後もエイブラハムの神の宗教は生き残っているのだろうかととりとめのないことを考えてしまった。その時でもあの3つの宗教は相容れないのだろうか?この物語のように、地球には生物が住めなく、もう聖地にも行けないような状況になっても、関係性は変わらないのだろうかなどと、本書の内容とは関係ないことを考えてしまった。