隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

父がしたこと

青山文平氏の父がしたことを読んだ。タイトルが「父がしたこと」なので、物語の重要なポイントで父が何かをしたのだろうというのは想像がついたのだが、それが過去に行ったことなのか、それとも物語が進行する中で起きることなのか、全くわからない状況で最後の方まで来た。最後の方まで来ているので、どう考えても今まで読んできたところに父がしたことが書かれている筈なのだが、全くわからなかった。そして、物語の最後に突入していった。

「再来年の天保15年」と書かれているので、1842年頃の時代設定と思われる。物語は父である永井元重と息子の重彰が屋敷の書斎で語らっている所から始まる。父は藩主の側近くに近習する小納戸頭取、息子は目付の訳についている。父の元重は息子に藩主の痔ろうの手術が蘭方外科の医師の手により行われることが告げられる。その手術には麻酔を使うこともあり、万が一のことを考えて、手術は大ぴらにはせずに行われる、執刀は城下近くの医師の向坂清庵が行うことなどが告げられた。手術は内密に行われるので、手術の患者の身体を保持するための助手を父元重と子の重彰が務めることになったということも告げられる。もちろんここで告げられたすべてのことは内密だ。

読み進めていくうちに、この痔ろうの手術がうまくいかなくて、それに関して父親が何かするのかとも思ったのだが、手術は成功した。そうして、物語は後半の方になり、最後の最後で父のしたことが明かされる。そして、「あぁそういうことだったのか」となってしまった。

この物語は最初から江戸時代後期の蘭方医のことについて、色々説明されている。この本を読むまであまり蘭方医について考えたこともなかった。あのターヘルアナトミアから人間の体についての興味が日本人医師の間に広がり、蘭方医というものが生まれてくるが、西洋医学で用いている薬というのはどれぐらい当時の日本に入ってきていたのかも不明だし、国内で調達できなければ、知識として治療可能であるとわかっても、何もできないという状況が随分続いたようだ。そのため、蘭方医というと当初は外科という分野で立ち上がったが、国内でも調達可能な薬の研究も進み、内科の領域にも徐々に広がりだすといういきさつがあったようだ。本書の中では色々な医書について触れながら、漢方医蘭方医について書かれていて、その部分の興味深かった。医書にかんしては、本売る日々 - 隠居日録にも色々書かれていたが、当然こちらの方が詳しく書かれている。