青山文平氏の本売る日々を読んだ。本書は短編集で、「本を売る日々」、「鬼に食われた
「初めての開板」はタイトルの通り平助が初めて開板する話なのだが、いつまでたってもその開板の話に繋がらないので、どうなるのだろうと思っていると、思わぬところから開板に繋がる。最初は平助の弟が嫁と娘を連れて不動尊の参詣にきて、喘病の発作が出た。それで関わりになったのが西島清順という名前の町医者。平助は詳しくその医者を知らなかったので、評判なりなんなりを調べるのだが、別の筋から佐野淇一という村医者と知己を得、西島清順の事を訪ねると、知らないという。実際のところ佐野淇一は西島清順を知らないが、西島清順は佐野淇一を知っている。そして、西島清順は平助に佐野淇一への頼みごとを託すのだが、それが縁で開板に繋がる。これはうまくできている話だし、当時の医学とか医書の話とかもうまくストーリーに生かされていてるのも良い。実は2話目が怪異譚の様だったので、この短編はそういう話が主なのかと思ったところでの、このストーリーだったのも良かったのかもしれない。そういう意味ではこの三編の配置はこの順がいいのだろう。巻末の初出一覧を見ると、「初めての開板」が2番目になっている。