隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ヒト夜の永い夢

柴田勝家氏のヒト夜の永い夢を読んだ。これは怪作(褒め言葉)だ。あーだ、こーだ書くと、かえって面白くなくなりそうでためらわれるのだが、何も書かないと一体何の話なのだということになってしまう。本の裏に書いてある慷慨程度は書いておくべきか?

1927年、和歌山の奥地たる田辺に暮らす南方熊楠の許に超心理学研究者であり僧侶の福来友吉が訪ねてきた。それは昭和孝幽学会という謎の組織への勧誘であり、昭和へと代替わりし新たに即位した天皇陛下にお見せする記念事業を参画であった。彼らがその事業のために作り上げたのが、天皇機関という名の自動人形であり、熊楠の得意とする粘菌が重要な役割を果たすことになる。しかし、昭和孝幽学会とは単純な異端の組織ではなく、大きな陰謀が潜んでいるのであった。

この小説は歴史上の人物を多数登場させ、粘菌だとか、仏教や曼荼羅だとか、不確定性原理を混ぜ込んだマジックリアリズム作品だ。そしてそこに、陰謀と革命、そしてタイトルにもある「夢」を持ち込んだ怪作。まぁ、酒を飲んで嘔吐したり、糞からアッと驚くものが作られたりもする。