隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ノースライト

横山秀夫氏のノースライトを読んだ。

これは北上ラジオの第3回目で紹介されていた。

本の雑誌 Presents 北上ラジオ 第3回 - YouTube

横山秀夫氏というと警察小説で、主人公は捜査関係の刑事ではない警察職員というイメージがあったのだが、この小説はミステリーではあるが、日常のミステリーに属する作品で、殺人が起きるわけではない。謎は「新築の家を建てたのに、なぜかその家に引っ越しして住まずにいる。なぜなのか?」というものだ。

物語の時代は90年代のバブル崩壊から数年ということなので90年の終わりごろだろう。「信濃追分に八十坪の土地がります。建築資金は三千万円まで出せます。すべてお任せします。青瀬さん、あなた自身が住みたい家を建ててください」と施主の吉野淘太は言った。信濃追分の土地は、浅間山に向かって坂を上り詰めた先の、四方が開けた場所だった。北側の窓を好きなだけ開ける場所に、北からの光(ノースライト)を主役にし、他の光を補助光にするため、屋内の構造、窓の位置・形状を決めた。それでも足りたい光量を補うために、屋根に「光の煙突」を付けた。その住宅が、「住まい200選」に選ばれて、評判となり、それがある種の呼び水となり仕事が舞い込むことになった。が、その通称Y邸を下見に行った人物から、だれも住んでいないようだと、青瀬は聞かされた。

そして、実際自分で現地を訪れて確認してみると、実際誰も住んでおらず、玄関の扉は壊された形跡がり、家に入ると、土足の跡があった。家具は一切なく、運び入れた形跡もない。ただ、留守番電話機が残されているだけだった。そして、2階には浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」が残されていた。

北上ラジオの中で、北上氏は「これは家族小説なんだ」と言っていた。どの家族の物語なのだろう?確かに青瀬は離婚していて、月に一回娘と面接をしているという設定になっいて、青瀬の家族の物語なのだろうかと思ったが、当然というか、そんな単純な構造ではなく、この小説の謎が解き明かされるにしたがって、様々な家族の物語が語られていくことになり、重層的な家族小説なのだということに気づく。

吉野淘太には連絡が取れず、Y邸に残されていた「タウトの椅子」を手掛かりに、「謎」を負うことになるのであるが、捜査関係者でもない建築家の青瀬ができることは限られているので、純粋に謎解きだけを期待して読むべきではないだろう。やはり、北上氏が指摘しているように、本書は家族小説なのであろう。