隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

巨神降臨

シルヴァン・ヌーヴェルの巨神降臨を読んだ。本作は巨神計画から続いてきた巨神シリーズ三部作の最終巻だ。前回、EDCのメンバーが突然巨神テーミスとともに宇宙に放り出されたところで終わって、「いったいどうストリーが続くのだろう?次巻は第一巻と第二巻の間が9年も時間が経過したようなことは起きないだろう」と勝手に想像していたのだが、今回も前巻との間は9年の時間が経過していた。

今回はいきなりテーミスが地球に帰ってきたところから始まる。地球に帰っていたのはローズ、エヴァ、ヴィンセントと異星人のエッキム。どうやら彼らは異星人の星からテーミスを強奪して、地球に帰ってきたようなのだが、地球に降り立った場所はエストニアだった。ほどなくして、彼らはロシアの監視下に置かれることになるのだが、9年間の不在はあまりにも地球の状況を変えていた。アメリカはテーミスに足を破壊された巨神を修復し、それを用いて、周辺国を従える恐怖政治を行っていた。カナダもメキシコも事実上この世には存在していない状況だった。そして、異星人の血をひくものを世界各国で収容所送りにし、殺害しているようだ。そして、本書では異星での9年間で何があったのかが少しづつ明らかにされていく。異星での生活はローズ、エヴァ、ヴィンセントの関係も変えざるを得なかったのだ。

作者が第一巻目を書いた時にはこのようなストリーになることを想定していたのかどうかわからないが、人類が巨神を手に入れて20年たった時には社会は分断されて、ヘイトにあふれる世界になっていた。作者はあまり詳しくは社会がどうなっているかは描いていないけれど、悪意に満ちた世界になっているのだろう。物語的にはこのような結末がついているが、巨神は人類には早すぎたのだろうし、分断された社会を人類自らリセットするのはやはり無理だろうと思ったら、そういうストーリーになっていた。だが、そうだとしても、世界を再構築するのは人類なのだが。