隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

感応グラン=ギニョル

空木春宵氏の感応グラン=ギニョルを読んだ。本書は短編集で、「感応グラン=ギニョル」、「地獄を縫い取る」、「メタモルフォシスの龍」、「徒花物語」、「Rampo Sicks」の5編が収録されている。これらの作品群は非常に昏い、ダークなイメージをまとっていて、本書のタイトルにもなっている「感応グラン=ギニョル」は更に残酷でグロテスクな設定になっている。この短編の中では、体に傷を負ったり、欠損している少女を集めて、残酷でグロテスクな筋立ての演劇を演じさせる一座が舞台になっているのだ。続く「地獄を縫いとる」では小児性愛者囮捜査用のAIを開発する女性たちの物語で、その世界では官能伝達デバイスや五感を共有するための技術が開発されており、よりリアルなAIが求められている。この作品は「感応グラン=ギニョル」よりはグロテスクではないが、何かインモラルなところをついてくる。

これらの作品群にはある共通点があるように感じた。それは何らかの作品からモチーフを借りてきているのだ。「感応グラン=ギニョル」はフランケンシュタインの怪物、「地獄を縫い取る」は地獄大夫、「メタモルフォシスの龍」は清姫、「徒花物語」はなんだかよくわからなかったのだが、解説を読むと吉屋信子花物語エスで、この短編を読んでいて作中に出てくるZって何だろうと思った。Sを鏡文字的にひっくり返してZにしたのだろう。「Rampo Sicks」はタイトルが表すように色々な乱歩作品からで、黒蜥蜴とか少年探偵団だろう。

読み始めた時は残酷な物語が続くとちょっと嗜好に合わな方とも思ったが、3作目以降はそのような感じはあまりなかった。「徒花物語」は少女小説のような舞台で筋書きなのだが、戦争が継続中で、不思議な病に罹患した少女たちが収容されているサナトリウムのような寄宿舎付きの女学校での話が、予想もできなかった様に話が展開ていくのが面白かった。