隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

感傷ファンタスマゴリィ

空木春宵氏の感傷ファンタスマゴリィを読んだ。本書は空木春宵氏の第2作目の本で、短編集である。収録作品は「感傷ファンタスマゴリィ」、「さよならも言えない」、「4W/Working With Wounded Women」、「終景 累ヶ辻」、「ウイッツチクラフト≠マレフィキウム」の5編である。

どれも独特の雰囲気を持った短編(あるいは中編)で、これらも前作と同じようなダークで昏い印象を与える作品になっている。特に「4W/Working With Wounded Women」はダークな作品だ。なぜそのような事なっているのかよくわからないが、痛みや瑕など肉体的ダメージを第三者に転送できるデバイスを指に装着している人々が暮らす上甲街と下甲街がある。ダメージは上から下へと送られる。上は富裕層が移住してくるところで、下にも金が必要な人間が移住してくることもあるが、殆どはこの街で生まれ育った者たちだ。下甲街の都合に関わらず、上甲街の瑕が送られてくるので、下甲街人間は満身創痍になる。とてつもないディストピア設定で、下甲街はこんな状況なので長くは生きられない。前巻とちょっと違うのは、このような物語なのだけれども、最後の方に希望があるところだ。

最後の「ウイッツチクラフト≠マレフィキウム」はVR空間上にいる魔女とその魔女を狩ろうとする騎士団との戦いで、最初魔女はフェミニストのように描写されているのだが、実は性別に関係なく不公平に対する活動家だということが徐々に明らかになる。こちらの物語にも、希望のかけらが最後に見られる。

「感傷ファンタスマゴリィ」は純粋な幻想小説だが、「さよならも言えない」はルッキズムを扱っている。前巻と比べると単なる幻想小説ではなくそこに差別とかのような負の感情を醸成させるものを足し合わせて物語を組み立てているようにも感じられた。