隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

時空犯

潮谷験氏の時空犯を読んだ。この作品も特殊設定ミステリーで、2018年6月1日が980回以上繰り返し怒っている世界での物語だ。

物語は探偵の姫崎智弘の元に、、情報工学の権威である北神伊織博士から、破格の報酬である1千万円の依頼が来たところから始まる。博士によると、2018年6月1日は、すでに千回近くも巻き戻されているという。しかし、普通の人は巻き戻されていることは認識できない。姫崎を含めたメンバーは、巻き戻しを認識することができるようにするため、博士から提供されたある薬剤を口にした。その薬を服用すると、記憶が失われずに、巻き戻しが起こっていることがわかるのだという。博士は参加するのは個人の自由意志だと言い、強制はしなかった。姫崎は半信半疑ながらも、報酬につられて実験に参加することにした。実験の目的は、第三者に視点で巻き戻しが実際に起こっているか確認すること、巻き戻しが起こっているならばなぜ同じ日だけ繰り返し巻き戻しが起こっているか原因究明に助力することだった。実験の参加者8名は薬剤を飲み解散した。そして、夜中を過ぎたころ、実際に6月1日の早朝に巻き戻りが起こったのだ。だが、巻戻りが起こった日に、北神博士が何者かに刺殺される事件が起こってしまった。

流石にこの設定の特殊設定ミステリーなので、かなり良心的なつくりのミステリーになっていると思う。なぜ巻戻りが起きるかという事に関しては一応作者なりの説明が詳しくなされているし、設定に穴がないような仕掛けも施しながら、この特殊な世界での殺人事件のミステリーが成立するように書かれている。このまき戻しが、超自然的な現象なのか、誰かが人為的に起こしているのかストーリー上なかなかはっきりしないので、その点がちょっと緊迫感にかけるような気もするが、よくできたストーリーだと思う。