隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

世界神話学説入門

後藤明氏の世界神話学入門を読んだ。世界の遠く離れた場所であるにも関わらず、非常によく似た神話がることが知られている。例えば古事記のイザナキが黄泉の国を訪ねてイザナミを取り戻す話と、ギリシャ神話のオルフェウスの話のように。本書は近年提唱されているある学説に関して解説した本である。その学説とは「世界神話学説」で、近年の遺伝学・考古学による現生人類の移動と特定の神話の流布に合致する傾向があるとする学説である。本書では特にハーバート大学のマイケル・ヴィツェルにより刊行された「世界神話の起源」に基づいて解説している。

マイケル・ヴィツェルは神話群は大きく分けると二つのグループに分かれるとしている。そのグループとは古層ゴンドワナ型神話と新層ローラシア型神話である。ゴンドワナ神話群はアフリカで誕生した現生人類のホモ・サピエンスが持っていた神話群で、現生人類の「初期の移動」である「出アフリカ」よにって南インドそしてオーストラリアへ渡った集団が保持していた神話群であるとしている。具体的には、サハラ砂漠以南のアフリカ中南部の神話、インドのアーリア系以前の神話、東南アジアのネグリト系の神話、パプアやアボリジニの神話群である。一方、ローラン型神話群はエジプト、メソポタミアギリシャ、インドのアーリア系神話、中国、日本の大半が含まれる。上で挙げた古事記のイザナキとギリシャ神話のオルフェウスの話はローラン型神話群に属している。

本書の筆者も指摘しているが、ゴンドワナとかローラシアという名前は比喩的なものあり、当然これらは過去地球に存在していたと考えられている大陸の名前から来ている。しかし、ホモ・サピエンスが誕生したころにはこれらの大陸は存在していないので、マイケル・ヴィツェルはなぜこれらの名前を神話群に与えたのか非常に理解に苦しむところである。また、最初の現生人類の移動である「出アフリカ」と関連しているのは、古層ゴンドワナ型神話であり、マイケル・ヴィツェルが「出アフリカ」が2度あって、2度目のルートが新層ローラシア型神話と関連しているという主張をしているわけではないようだ。にもかかわらず、意図的ではないにせよ、これらのネーミングと、2つを並列に説明することで、両者をまぜこぜにしている印象がぬぐえなかった。

本書を読んだ感想としては、説としては面白いのだが、古層ゴンドワナ型神話の類型がどれだけ人類の移動に関連づけて説明できるかが本節の信憑性性に大きくかかわってくる。これは本書においては必ずしも成功しているというような印象は受けられなかった。新層ローラシア型神話に関しては既に広範囲に人類が分布して以降のことなので、互いに交流があることは容易に想像できるので、似た神話があっても不思議ではないと感じられる。