隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

法の雨

下村敦史氏の法の雨を読んだ。検察が起訴した事件の有罪率は99.7%だ。しかし、高等検察庁の検事の大神は同じ判事から3度無罪を言い渡された。その裁判官は年間15件もの無罪判決を言い渡していて、無罪病判事と揶揄されていた。そして、更に次の担当の二審裁判でも、同じ判事が裁判官となった。その事件は病院内で起きた殺人事件で、看護師の青年が入院患者であった暴力団の組長を殺害した事件だった。一審では被告は無罪を主張したものの、検察は物証や証言を積み上げ、有罪判決になった。そして、控訴審が開かれることになり、大神が担当することになったのだが、無罪病判事はまたしても無罪を言い渡した。しかし、判決理由を読み上げている途中で、判事は突然倒れ思しまったのだった。

この後場面はいきなり高校生が受験発表を見に行く場面となり、「あれ?これはどうつながるのだ?」と思っていると、この高校生の嘉瀬幸彦は無罪病判事の孫で、祖父が倒れ、その後認知症を患ったことにより、大学入学が危うくなるという風にストーリーはつながっていく。この時点でストリーの展開がわからなくなったのだが、無罪となった看護師が殺されたところから、ストリーは組長殺害事件の方に引き戻されるようになり、一体誰がなぜ組長を殺したのかという謎がクローズアップされてくる。しかし、ストーリーは二転三転して真相は最後の最後まで分からないというのは当然の事だろう。高校生の嘉瀬幸彦のストーリーも本筋のストーリーに当然かかわってくることになる。

この小説は成年後見制度とか有罪率は99.7%の問題とかいろいろ言及しているけれども、「いったい何があって組長が殺されたのか」という一点だけをとっても面白く、読みごたえがあった。

へんぶつ侍、江戸を走る

亀泉きょう氏のへんぶつ侍、江戸を走る。本作の主人公は明楽久兵衛で、将軍様の駕籠担ぎである御駕籠之者組に属する御家人なのだが、今でいうところのアイドルオタクで、深川芸者の愛乃に入れ込んでいる。なので組中の同輩からは変物と呼ばれている。今日も今日とて、剣の稽古も四半刻で終えて、いそいそと深川に出かけていったのだが、どうしたことか目当ての愛乃はついさっき亡くなったという。一体何がどうしてそうなったのかわからない久兵衛は、愛乃の住んでいた長屋に行き、行きがかり上愛乃の亡骸を叔父という茂吉の所まで早桶代わりの油桶を担いでいくことになってしまった。そして、そこで愛乃が実は毒を盛られて殺されたのではないかという疑いが出てきたのだった。

物語はこの愛乃の殺害をめぐる事件に久兵衛が巻き込まれていくのだが、その裏には幕政を揺るがすような大悪事があったという風につながっていく。前半から中盤までは愛乃の殺害の謎をめぐるミステリーのような感じで進んでいくが、後半になると実はその裏にはいろんな人たちの思惑が入り乱れての事件だったという風につながっていく。

江戸の町に上水道が張り巡らされていたというのはあまりにも有名で知っていたが、実は下水道も整備されていたというのは知らなかった。それと「大供」なる言葉があるのも知らなかった。そしてこの物語の肝となる騒動に関しても知らなかった。色々知らないことを知るきっかけになったし、物語も軽快に進んで面白かった。それと、将軍家重も本作には重要な登場人物として登場してるが、今まで障害があり言葉が自由にしゃべれなかったぐらいの事しか知らなかったのだが、家重その人についても興味を持った。