隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

へんぶつ侍、江戸を走る

亀泉きょう氏のへんぶつ侍、江戸を走る。本作の主人公は明楽久兵衛で、将軍様の駕籠担ぎである御駕籠之者組に属する御家人なのだが、今でいうところのアイドルオタクで、深川芸者の愛乃に入れ込んでいる。なので組中の同輩からは変物と呼ばれている。今日も今日とて、剣の稽古も四半刻で終えて、いそいそと深川に出かけていったのだが、どうしたことか目当ての愛乃はついさっき亡くなったという。一体何がどうしてそうなったのかわからない久兵衛は、愛乃の住んでいた長屋に行き、行きがかり上愛乃の亡骸を叔父という茂吉の所まで早桶代わりの油桶を担いでいくことになってしまった。そして、そこで愛乃が実は毒を盛られて殺されたのではないかという疑いが出てきたのだった。

物語はこの愛乃の殺害をめぐる事件に久兵衛が巻き込まれていくのだが、その裏には幕政を揺るがすような大悪事があったという風につながっていく。前半から中盤までは愛乃の殺害の謎をめぐるミステリーのような感じで進んでいくが、後半になると実はその裏にはいろんな人たちの思惑が入り乱れての事件だったという風につながっていく。

江戸の町に上水道が張り巡らされていたというのはあまりにも有名で知っていたが、実は下水道も整備されていたというのは知らなかった。それと「大供」なる言葉があるのも知らなかった。そしてこの物語の肝となる騒動に関しても知らなかった。色々知らないことを知るきっかけになったし、物語も軽快に進んで面白かった。それと、将軍家重も本作には重要な登場人物として登場してるが、今まで障害があり言葉が自由にしゃべれなかったぐらいの事しか知らなかったのだが、家重その人についても興味を持った。