隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

君の顔では泣けない

君嶋彼方氏の君の顔では泣けないを読んだ。本書は北上ラジオの第37回で紹介されていた。

男女入れ変りのディテールが抜群に上手い君嶋彼方『君の顔では泣けない』(KADOKAWA)を読むべし!【北上ラジオ#37】 - YouTube

男女の心が入れ替わった物語だ。そして、入れ替わったまま元に戻らず、15年が経過したところから物語が始まっている。事の発端は、15歳の高校一年の時、坂平陸と水村まなみの中身が入れ替わってしまった。思い当たる入れ替わりのきっかけは、誤ってプールに一緒に落ちたことだ。もう一度プールに落ちてみたけれど、戻らなかった。それから15年たった今の視点と、15年前からの物語を交互に、女性の中に入ってしまった、坂平陸の視点で語られている。

北上ラジオの中で、作者は男か女かわからないと話しているが、どうやら作者は男性のようだ。そのことは本書を読み終えてから調べて分かったのだが、女性がこの小説を読んだときに、このなかで男の陸が女性になって感じた理不尽とか不自由さというのはどのように感じるのだろう。リアルに思えるのだろうか?それともま違和感を感じるのだろうか?私は男なので、実際はどうなのかはわからないが、読んでいて想像できることと、「えっそうなの?」という事と色々あった。男とか女とかを抜きにしても、他人の中に入って生きていくという不自然さや違和感は想像を超える部分が多々あると思うが、人生における選択が自分のためだけではなく、入れ替わる前の相手の事を考えてしまうだろうのも仕方がないことなのだろう。それに、入れ替わりの状況がいつまで続くかわからないのも苦痛だし、いつか終わるかどうかもわからない。この物語は単なる男女の入れ替わりというだけではく、自分の中にある違和感というようなことも描いていて、非常に面白かった。

朝と夕の犯罪

降田天氏の朝と夕の犯罪を読んだ。

この本もどこかで紹介を読んで面白そうだったので、読んだのだが、例によって、読もうと思った時と実際に読み始めた時の間が空いているので、内容に関してはどのようなものだか全然わからない状態で読み始めた。作者の名前もすっかり記憶に残っていなくて、第二部を読み進めているうちに「狩野」という名前の警察官が出てきて、「あれそういえばこの名前に何か記憶がある」と思い、作者名をもう一度確認すると、以前に読んだことがある作者の本だった。そのミステリーにも狩野という警察官が登場していて、ある種のシリーズ物と言えなくもないが、この本では狩野がメインというわけではない。このミステリーもある種倒叙的な構成になっており、第一部で起きた犯罪と第二部で起きている事件とどのような関係があるのかは徐々にしか明かされておらず、薄皮を剥ぐように少しづつ謎が明らかにされていく構成は、私の大好きなミステリーの展開なので、面白く読み進めた。

ストリーに関してはネタバレになるのであまりかけない。第一部では狂言誘拐が起きるのだが、読者にはその最後に実際に何が起きたのかは明らかにされていない。その部分も含めて、第二部で徐々に明らかになるさまを読むのが、このミステリーの楽しみ方だろう。