隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

屍人荘の殺人

今村昌弘氏の屍人荘の殺人を読んだ。「でぃすぺる」を読んで、今更ながらデビュー作にも興味を持ったので、この本も読んでみた。出版された直後かなり話題になっていたのは憶えているが、ミステリーということ以外は全く内容に関しては知らないで読み始めた。ただ、「でぃすぺる」が特殊設定ミステリーなので、この作品も多分特殊設定ミステリーなのだろうと想像はしていた。そして、その特殊設定はどのようなものなのか興味深かった。なんせ「でぃすぺる」の特殊設定自体に惑わされたので。単行本が2017年の出版で、もう7年近く経過しているが、特殊設定に関して明らかにしても良いのかどうかちょっと迷ってしまう。巻末の選評を見ると、ほとんど特殊設定に関しては書かれていなくて、辻真先氏が唯一バイオテロと書いているので、そこまでは書いていいのかとは思う。

この作品はバイオテロにより外部と隔絶してしまったペンション内で起きた殺人事件に関するミステリーだ。ある大学のミステリー愛好会からミステリー好きがペンションで行われる映画研究会の合宿に参加するという筋立てが既に舞台装置を作り始めているし、そこに実際に事件を解決したことがある探偵少女も合流することになると必ず事件が起こることは必定だ。しかも、合宿を中止することを求める脅迫状まで映画研究部に送り付けられている。

このバイオテロによって引き起こされた特殊設定を良しとするかどうかで好みがわかれると思うが、よくできたミステリーだと思った。どこまでこの特殊設定が物語に食い込んでいるかどうかの見極めがよくわからなかったので、死因の「噛み殺された」というのはある種比喩的なもので、実際は何かの装置によってそのように見えるようになっているのではないかと考えていたのだが、ここは本当に「噛み殺された」ということだ。そうなるとこれは人に仕業ではないのか?とあらぬ方に考えが及んだが、それではミステリーとしては成り立たない。この辺りをうまく解決しているのだから、この特殊設定は物語にがっちりかみ合っている。

一つ勘違いしていたのは、このたいとるは「しびとそう」と読むのだろうと思っていたのだが、どうやら「しじんそう」のようだ。舞台となったペンションが「紫湛荘」という名称で、「しじんそう」と読むのだから、この本のタイトルもそうなのだろう。

ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか

ジョージナ・スタージのヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか (原題 BAD DATA How Governments, Politicians and Rest of Us Get Misled by Numbers)を読んだ。著者はイギリスの統計学者で、英国議会の下院図書館所属で、公共政策のための計量分析に従事している。そのため、本書に出てくる例はイギリスに関するものばかりなので、これをそのまま日本に当てはめることはできない。

原題にある"bad data"という言葉が本書では繰り返し出てくる。ではbad dataとは何かというと、一見正しいと思われるデータの中に潜んでいる不正確で当てにならないデータのことだ。具体的にはデータが欠落(数えるのが難しかったり、数えるのに必要なリソースや意欲が欠けているため、数えられていない)していたり、数えられていても、連続性や一貫性に欠ける方法で数えられてしまったために、それを用いて全体像をとらえることが不可能な場合だ。 一方で、適切な方法で数えられているのに、データが公表されていない場合もある。

また、別なbad dataの例としては、特定の人口集団がそっくり除外されたデータ、時代にそぐわない古いデータ、目的との関連性が薄いデータ、あてにならない予測に基づくデータなどがある。ここに例示されている関連性の薄いデータは、ただ単に何らかのビッグデータがあったとしても、それが果たして使える物なのか全くわからないという事に強く関連していると思う。また、最後の当てにならない予測だが、使うときにそもそもそれが予測データなのかどうかわかっていないと、とんでもない結論が導き出される恐れがあって、注意しなければいけないだろう。まして、それが当てにならない予測なら、全く使い物にならない。本書にはこのような事例が多数あげられている。