隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

往来絵巻 貸本屋おせん

高瀬乃一氏の往来絵巻 貸本屋おせんを読んだ。本作はデビュー作の貸本屋おせんの続編。「らくがき落首」、「往来絵巻」、「まさかの身投げ」、「みつぞろえ」、「道楽本屋」の5編が収録されている。

前作も謎解きの要素はあったと思うが、今作はどれもその色合いを濃くしたような話が多かった。しかも自ら事件に巻き込まれるかのようにぐいぐいとかかわっていく。「みつぞろえ」などはおせんはそんな感じだったかと思いつつ世も進めていて、まんまと作者の誘導にはめられてしまった感じだし、「往来絵巻」も絵巻には10人書かれている筈なのに一人足りないという所から、思わぬ裏の思惑が露見するという展開で、最後の方になってなるほどと驚いた。いつの間にか捕り物帖的な筋立てになっているのは当初の目論見ではないとは思うが、これはこれで面白かった。

月とアマリリス

町田そのこ氏の月とアマリリスを読んだ。2月26日(水)2025年のベスト1 町田そのこ『月とアマリリス』 - 帰ってきた炎の営業日誌|WEB本の雑誌に「なにせあの町田そのこが、ミステリを書いたのだ」と書かれていて興味を持った。以前読んだのは宙ご飯で、ミステリを書くような作家とは思っていなかったからだ。読みながら思ったのは、広義の意味ではミステリだが、謎解き小説ではないということだ。主人公は元雑誌記者で、ある事件を調べていて、とてつもない人間関係の暗部に迷い込むというストーリなのだ。ただし、彼女は調査するが、特に理詰めで推理するわけではない。この手の小説で難しいのは、いかにして事件の核心に近づいていくかだろう。小説なのであまり無駄なことは書けない。適度なページ数で物語が動いていくには、どうしても犬も歩けば棒に当たる的にならざるを得ない。そこだけを見てしまうと、ご都合主義の羅列になってしまって、どうしてこんなに都合よく核心に結びつくのかという疑問が湧いてしまう。

物語のプロローグでは男と女二人が誰かの老婆の死体を遺棄している場面がえがかれていて、元雑誌記者の飯塚みちるがひょんなことからその死体遺棄事件を調査することになる。彼女は東京の雑誌社で働いていたが、ある記事の失敗から故郷の北九州市に逃げ帰り、地方のタウン誌のライターをしていた。元カレでもある雑誌社の元上司から地元で発生した死体遺棄事件の取材するように依頼されて、いやいやながら調査を開始した。そして、ひょんなことから老婆と思わる女性の住んでいるアパートがわかり、訪ねていくと別な若い女性の遺体を発見してしまう。

本書は明かされる事件は男女のドロドロした愛憎で、どうしようもない男の犯罪に巻き込まれた二人の女性の悲劇だ。あまりこういう内容は好みではない。たが、帰ってきた炎の営業日誌 > 2月26日(水)の「「町田そのこ」とは何かといえば」にかって目黒孝二氏が行った町田その子分析が書かれていて、まさにそこに書いてある通りだった。本作とも通じるテーマがあり、重い作品のような気もするが、ちょっと52ヘルツのクジラたちにも興味が湧いた。