隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

あの図書館の彼女たち

ジャネット・スケスリン・チャールズのあの図書館の彼女たち (原題 THE PARIS LIBRARY)を読んだ。本書の舞台の一つはパリにあるアメリカ図書館で、これは実際にパリに存在する図書館なのだという。第一次世界大戦中にアメリカの図書館から戦地の兵士に送られた多くの本を基にして、1920年アメリカ図書館協会と議会図書館によって、「戦争という暗闇の後に、本という光がある」という事を旗印に設立されたという。この小説の時代のひとつは1940年代(正確には物語は1939年から始まっているが)であり、当時フランスはドイツに占領され、パリ市内の多くの図書館は閉鎖されたが、アメリカ図書館は何とか活動を続けていた。ナチスによるユダヤ人迫害は図書館にも及び、ユダヤ人は図書館を利用できなくなったが、当時の館長は戦地に本を送る作業と並行して、図書館利用者のユダヤ人に本を届けるサービスを秘密裏に始めた。あらすじにはこのような時代背景に関して書かれていたので、この秘密のサービスのことが中心の小説かと思い、読み始めたのだが、そうではなかった。

本書の主人公のオディールは本を愛するパリジャンヌで憧れのアメリカ図書館の司書に採用される辺りから物語が始まる。オディールの両親は彼女が外で働くことは望んでおらず、早く結婚してほしいと願っていて、警察署長の父親は頻繁に若い警察官を食事に招いて、娘と見合いのまねごとをしていた。オディールは結婚などまだ早いと思っているので、父親の連れてくる男には興味がなかったのだが、ある日やってきたポールには惹かれるものがあり、やがて二人は恋人になる。

一方で、別な物語も進行していく。時代は1984年で、アメリカのモンタナ州が舞台になっている。その物語ではリリーという少女が主人公で話が進んでいく。物語の割と早い段階で、実はリリーの隣に住むミセス・グスタフソンがオディールでありることが明かされるのだが、40年の間に何があり、オディールがアメリカに渡ったのかは、最後の最後ま明かされない。

最初に書いたように、この物語は第二次世界大戦中のパリのアメリカ図書館におけるユダヤ人への秘密のサービスが中心の物語だと思ったのだが、実はオディールの友情と妬みと悔恨の物語だった。オディールとリリーは好奇心が強かったり、不用意な発言や行動をしてしまうような共通する部分があり、リリーの物語はオディールの物語の長い長いエピローグでもあるのだが、二人が過去の過ちを繰り返さずに、前に進めるかどうかを描く物語でもあった。