隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話

デイビッド・モントゴメリーの土・牛・微生物ー文明の衰退を食い止める土の話(原題 Growing a Revolution)を読んだ。

生物の多様化が重要だとよく言われている。私はこの言葉の意味することをあまり深く考えず、半ば盲目的に正しいものとしていたのだが、本書を読んで改めてその意味するところを理解できたような気がする。本書は現在の農業が直面している土壌に関するレポートであり、提言書で、著書は主にアメリカの農家や農業試験場を取材し、そこで今新に行われいる不耕起農法について述べている。

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忘却する戦後ヨーロッパ 内戦と独裁の過去を前に

飯田芳弘氏の忘却する戦後ヨーロッパを読んだ。

イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞したときにNHKで再放送された「カズオ・イシグロ 文学白熱教室」を見た。 この番組はイシグロ氏が学生たちに自身の創作について語り、学生と討論する番組だったのだが、その中でイシグロ氏が忘れられた巨人に関して、その着想の一つが第二次大戦後フランスで起きた過去の忘却についてだと語っていた。その過去の忘却とは第二次大戦中にドイツに占領されたフランスには愛国者しかいず、レジスタンス活動を通じてドイツ軍と戦っていたという偽の記憶をドゴールが作り出し、国を挙げてそれを信じたというような話だったと記憶している。実際はそのようなことは事実ではなく、ドイツ軍に協力したフラン人も多数いたのは事実なのだが、それを忘却して、国民がバラバラにならないようにあえて偽りの記憶を国民で共有したというのだ。そのことを知ってから、頭の片隅にこの忘却ことが残っていて、なんとなく気になっていたのだが、そのことに関して研究した本が出版されているのを知り読んでみた。

過去に起きたことに目をつぶり、そのことに対して検証もせずに忘却するのは不誠実な対応であり、当然非難されてしかるべきなのだろう。だが、同じ国民の中に根深く残る亀裂と憎悪が表面化すると、国内が二分され、最悪の場合内戦が発生しかねない状況に陥ることも想像される。それを回避するための一つの方法が忘却だというのだ。

通常内戦の終結や、独裁体制の崩壊、非民主主義体制からの脱却が起きた場合、より民主的で公正な社会を築くため、過去に行われた人権侵害や大量殺戮などの深刻な負の遺産の政治的・社会的な救済が行われることがあり、この種の取り組みは「移行期正義」と呼ばれている。いわゆる「過去の克服」であるのだが、戦後ヨーロッパにおいては、移行期正義の追及に制約が課されたり、移行期正義に反するかのような政策がとられたり、特定の政治的事実を不問に付すという「忘却の政治」がとられたことも知られている。そしてこの忘却の政治と密接に関係しているのが「恩赦」である。

筆者は第二次大戦後ヨーロッパで起きた忘却の歴史を、三つの時代区分で解説している。

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