隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

三体III 死神永生

劉慈欣氏の三体III 死神永生を読んだ。

三体シリーズの最終巻だが、2巻目の最後があのような形で終わって、一体どいう展開になるのだろうと思って読み始めたのだが、最初に「時の外の過去」の部分があって、これも何かの仕掛けなのだろうと読み、その次がいきなり1453年の東ローマ帝国崩壊の時にストーリが巻き戻って、一体何が始まるのだろうと当惑した。このストーリーは何のために挿入されたのだろう?単純に永遠に続くものはないという事を意味するだけのものとは思えないのだが、ディオレナという魔女の役どころが特によくわからなかった。そして、メインのストーリーはまた再び、危機紀元から始まるのだ。今巻には2巻の登場人物である羅輯も登場するが、メインの主人公は程心という女性に変わる。程心は化学燃料ロケットの研究者であったが、化学燃料ロケットには限界を感じていた。偶然から惑星防衛理事会(PDC)の下部組織にあたるPDC戦略情報局(PIA)という三体艦隊とその母星を直接偵察する任務をおびていた組織からオファーを受け、転職した。敵の偵察として計画を進めていくのだが、現在の技術では高速の1パーセントまでの速度にしか達せず、送れる重量も180㎏という超軽量の探査装置になることが分かったのだ。結局送れるのは人間の脳だけで、しかも「智子によりこちらの行動はどうせ筒抜けだ」という暴論から、「送った冷凍冬眠状態の脳を敵に鹵獲させようという」戦術に転換していく。この辺りはあまりにも強引で、とにかく何かを相手に送りたいだけだ。

今回の最終巻はまさにジェットコースター的な展開に終始し、こちらが有利になったと思えば、一転こちらが不利になり、しかし人類は転んでもただでは起きない、しかし、それでもできることには限界がある、と目まぐるしく展開していく。上巻が終わったところでは、一つの危機は乗り越えたが、次の危機がやってくるのは確実だというところで終わり、下巻に至っては「そんなとてつもない最後につながっていくのか!」という結末になっている。ネタバレになるので詳細は一切書けないが、光速が遅くなるとか、止まるとか、次元の縮退とかちょっと何が起きるのか全く想像もつかない世界だった。

生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像

田口善弘氏の生命はデジタルでできているを読んだ。本書はゲノムを情報処理装置に見立て、解説をしたものだ。

セントラルドクマ

セントラルドクマとは基本原理とか中心教義として日本語に訳され、その意味するところはDNA→RNA→タンパクという順に情報が伝達されることを意味している。そして、DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類から構成されており、これは全ての生命に共通である。DNAのうち生命の設計図の情報を保持している部分を特にゲノム(genome=gene(遺伝子) + -ome(総体)) と呼んでいる。ヒトゲノムプロジェクト(ヒトゲノムの配列読み取るプロジェクト)の結果約2万ヵ所(単位は不明。30億塩基の2%しか意味がないという表現も別の所にあるので、AGCTのDNA塩基ではなく、アミノ酸の種類は数百という単位なので、タンパクに関する何かだと推測される)のゲノムがあることが分かったが、それ以外はタンパクに変換されないジャンクだと思われていた。しかし、DNAの7~8割がRNAにコピーされていることが分かった。

RNA

DNAの内容をRNAにコピーしてタンパクを作るのがセントラルドクマの機能だが、タンパクにならないRNAが多数あることもわかってきた。ではコピーされるが、タンパクにならないRNAは何をしているのか?

マイクロRNAによる阻害

マイクロRNA(miRNA)はヒトゲノムプロジェクト以前から知られていたRNAで、21から25塩基が連なっている短いRNAだ。miRNAが何をしているかは不明な点も多いが、他のRNAに結合して、そのRNAの働きを阻害しているようなのだ。miRNAの端っこに8つの塩基がシード領域として存在し、この8塩基と相補的な(A⇔U、C⇔Gと結合する)RNAを標的にして、結合する性質がある。miRANに結合されたRNAはその発現が抑制されるのだ。タンパクは元となるRNAが決まっていて、miRNAの標的となる部分の配列はRNAごとに異なっているので、標的となるRNAが決まれば、そのようなmiRNAを設計することは可能である。ただし、「このシード配列はこのタンパクに関係していて、生物学的にはどのような機能を制御している」という事がわかっていればいいのだが、そのような知見はまだ十分得られていないようだ。

マイクロRNAスポンジ

これはmiRNAの機能を阻害するようなRNAである。遺伝子組み換え技術を使いマイクロRNAスポンジの遺伝子を書き込むと、この遺伝情報が読みだされ、RNAが作られる。すると、標的となるmiRNAがこの生成されたマイクロRNAスポンジに結合して、miRNAの機能が阻害されるのだ。

環状RNA

DNAの塩基配列RNAに変換されるが、タンパクになるときに捨てられてしまう部分と(イントロン)とそのままタンパクになる部分(エクソン)がモザイク状に入り組んでDNAに記述されている。細胞の中では一旦RNAにコピーして、タンパクを作るときにいらない部分を取捨選択しているのだが、具体的には、低分子リボ核タンパク(snRNP)粒子がイントロンの両端に取りつき、snRNPが結合して、エクソンイントロン間で切断が生じ、イントロン同士が結合して閉じたループができ、最終的にはイントロンのループが切り離される。ほとんどの切れ端は処理されて無くなるが、一部の切れ端が処理されずに残ることがある。実は残った切れ端はマイクロRNAスポンジとして機能しているというのだ。残念ながらこれ以上の詳細は書かれていないので、具体的にどのようなことをしているかは不明だ。

タンパク

タンパクというと栄養素としてのタンパク質が思い浮かぶが、物質的にはアミノ酸が結合したものがタンパクで、タンパクの持つ電荷クーロン力が働き、別の物質と結合したり、反発したりして、相互作用している。

受容体

受容体というのはセンサーのことだ。タンパクに物質が結合することで、タンパクの構造が変化して、その物質があることが検出されるようなのだが、説明の文章を読んでもちょっとピン来なかった。

酵素

酵素というのは触媒の一種で、それ自体は反応に直接かかわらないが、反応を促進する作用をする。例えば消化酵素などがそれにあたる。アミノ酸が結合してタンパクになるときに、隣り合ったアミノ酸から水酸基と水素が分離して水ができてアミノ酸が結合するペプチド結合という反応が起きる。消化酵素はこの反応を促進して、水分子を使ってアミノ酸の結合を切る反応(加水分解)の触媒となる。

抗体

人間体には免疫という機能があり、体内に入ってきた異物を攻撃・破壊して排除することができる。人体にとって有害な異物を選択的にマークするのにタンパクを使っている。

この本を読んで、色々なことがわかりつつあるのは理解できたのだが、まだまだ分かっていないことが多すぎることも理解できた。