隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすか

未来を読む AIと格差は世界を滅ぼすかを読んだ。大野和基氏がジャレド・ダイアモンド、 ユヴァル・ノア・ハラリ、 リンダ・グラットン、 ダニエル・コーエン、 ニック・ボストロム、 ウィリアム・J・ペリー、 ネル・アーヴィン・ペインター、 ジョーン・C・ウィリアムズの各氏に来るべき世界の未来に関してインタビューしてまとめたものだ。期待して読み始めたのだが、期待したほどの面白さはなかった。インタビュアーの問題なのか、本書が新書で総ページ数が250ページほどなので、掘り下げたインタビューがなされていないためなのか、判断がつきかねるが、物足りなさが残るインタビュー集というのが読後の印象だ。

ストーリーを守るために戦争に行く (ユヴァル・ノア・ハラリ)

ハラリ氏は「この世にリアルに起きていることと、想像の中で作り出したストーリーを区別する能力を失いつつある」と指摘し、「ストーリーに反するものがあれば、それが何であってもストーリーを守るために行動する。かなりの苦痛を生じさせてまでも、戦争に行く人たちがいるのは、そういうことです」と述べている。結局人間は自分の信じたいものを信じるということの別な表現だと思うし、世の中にフェークニュースが蔓延するのも、これが原因の一つだろう。

偶発核戦争は起こり得る (ウィリアム・J・ペリー)

アメリカのコロラド州にはアメリカに向かって発射されたミサイルを探知し、警報を発するシステムがあるのだが、 ペリー氏は50年間に3回の誤報があったというのだ。そのうち一回はアメリカが危うく反撃しそうになっていたと指摘している。この手のシステムで誤報が発せられるということがちょっと信じられないのだが、誤報の問題は解決されていることを祈るのみである。

それとおもしろいと思ったのは、政治家が発する「全ての選択肢がテーブルにある」という言葉の意味だ。これは「私は何をしたらいいのかわからない」いうとだという。今後この発言が出てきたときは特に注意しようと思った。

分極化するアメリカ (ジョージ・C・ウィリアム)

一寸俄かには理解しがたいのが「コンピュータの所為で分極化が進んだ」という説明だ。アメリカでは10年ごとに国勢調査が行われ、それをもとにして行政区分の再編成をしているという。新しい行政区域ができて、下院議員が選ばれる。その時、コンピュータが複雑な編成をして、ほとんど共和党員だけの区域やほとんど民主党員だけの区分を作ることができると指摘しているのだが、本当なのだろうか?どんなことをすればそんなことが可能になるのだろう?

室町無頼

垣根涼介氏の室町無頼を読んだ。タイトルにあるように時代は室町時代で、舞台は京都。そこに集まってきた男たちの物語だ。本書は500ページを超える大作で、ストーリはゆっくりと進行していく。主人公は才蔵という17歳の少年で、赤松家牢人だった父親が亡くなり、京都に出てきて油屋の丁稚をしていたのだが、色々な縁があって骨皮道賢、蓮田兵衛に出会い、棒術使いの兵法者なっていくのが前半部分だ。そして、蓮田兵衛は閉塞した室町の世を揺さぶろうと後の世で寛正三年の土一揆と呼ばれる一揆を画策して、幕府軍に打撃を与えるさまが後半で描かれている。

500ページを超える大作なので読みごたえはあるし、内容も面白い。読後の印象もさわやかであるのがいい。無頼とタイトルについているが、骨皮道賢にしろ、蓮田兵衛にしろ、単なる無頼の徒というより自分なりの理屈に基づいて行動している。この小説の登場人物である骨皮道賢や蓮田兵衛は実在の人物であり、蓮田兵衛は一揆の首謀者として打ち取られたことになっている。後半の一揆の部分はわからないことも多いので作者の想像の部分も多数あるだろうが、そうだとしても面白く読んだ。