隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

世界の終わりの天文台

リリー・ブルックス=ダルトンの世界の終わりの天文台 (原題 Good Morning, Midnight)を読んだ。この小説はカナダの北極圏にあるバーボー天文台オーガスティン・ロフタスの物語と人類初の木星有人探査船アイテルの搭乗員のサリー・サリバンの物語が交互に語られる。

バーボー天文台に自らの意思で残った年老い天文学者であるオーガスティン・ロフタス。外の世界で何か破壊的な出来事が進行し、12名いた研究者はオーガスティン以外は皆撤収命令に従って、天文台を離れていった。そして、みんながいなくなった天文台で、オーガスティンは一人の少女を発見した。名前はアイリスという。最初は何かの手違いで、彼女が置き去りにされたと思ったのだが、いつまでたっても、誰も迎えに来ず、二人は外で何が進行しているかわからない奇妙な状態で共同生活を送ることになった。アイリスは無口であまりしゃべらないので、オーガスティンは自分の現在の状況、そして今までの人生を振り返ることとなる。彼の母親は心の病のせいで、閉鎖病棟に入院することになってしまった。まだ、オーガスティンが幼い頃だった。かれは、若くして研究者として頭角を現していくが、その一方で私生活は荒んでいた。女性を誘惑しては、捨てるということを繰り返していたのだ。或る日、妊娠したことを告げだれたオーガスティンは、彼女に堕胎を迫り、それが受け入れられないとわかると、躊躇なく彼女の前から姿を消してしまった。しかし、そんな彼も、後年彼女の消息を調べ、娘が生まれたことを知ると、娘の誕生日にはプレゼントを贈るのだった。

一方、探査船アイテルは、木星の衛星の観測を終えて期間についた頃、突如地球との交信が途絶えてしまった。彼らにも、地球で何が起きたか全くわからないまま、1年に及ぶ帰還の旅路が待っていた。搭乗員は6名いたが、精神のバランスを崩して、自棄になるものが出始めるありさまだ。そしてそんな旅の中、サリーも自分の過去と向き合うことが多くなっていった。父親不在で、研究者の母親と過ごして幼少期。母親は再婚を機に、研究者を止めてしまったこと。そんな母親に失望してしまっていた自分。そして、ある日母親の訃報に接したこと。サリーは宇宙飛行士を目指し訓練を受け、木星探査船の搭乗員に選ばれたが、それが原因で、離婚することになり、夫と娘を失ってしまったこと。

広い意味で本書はSFに含まれるのであろうが、あまりSF的な要素はない。どちらかというと二人の主要な登場人物の内面に入り込み、彼らの心境がどのように変化していくのかを追うのがメインと思われる。そして、何のつながりもないであろう二人がこの物語のどこかで交差し、そしてどのような最期を迎えるのか。結局物語では何が起きて、地球の交信がとれなくなったのかは一切明かされずに終わるし、今後どうなるかも明確には示されない。なので、そこは単なる設定で、この物語の本質ではないのだろう。