隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

鬼憑き十兵衛

大塚已愛氏の鬼憑き十兵衛を読んだ。この小説は時代小説というよりも、実際は伝奇小説だ。

時は寛永十二年十月、所は肥後熊本。物語は15人前後の侍たちが少年を追って、雨の中山に分け入ることから始まる。山に分け入っているのは荘林正馬ら一群で、加藤家浪人。一方、山に逃げ込んだのは十兵衛という名の少年。十兵衛は剣の師である松山主水に呼ばれて、円光寺に出かけて行った。主水は柳生十兵衛との立ち合いで怪我をし、円光寺で療養していたのだが、そこで告げられてのは、剣の師であると思っていた主水が実は父親で、元服を済ませ次第、藩に実子の届けを出すというのだ。しかし、その晩賊が寺を襲撃し、父親を殺されてしまった。十兵衛は何人かをしとめることはできたが、多勢に無勢で山に逃げ込んだのだった。

この加藤家浪人達との激闘の中で、タイトルにもある「鬼」に十兵衛は出会うことになり、というか、ひょんなことから助けたことになり、それが縁で鬼に取りつかれるという奇妙な関係になる。十兵衛は父の敵を討つために、鬼の力(喰ったものの記憶を読み取る力)を借りて戦っていくのだが、それはほんの序で、この後なぜ父が暗殺されることになったのか、そして熊本細川家で起きている陰謀に巻き込まれていく。

本作は2018年の日本ファンタジーノベル大賞受賞作で、デビュー作のようだが(同時期に角川文庫キャラクター小説大賞も受賞しているので、どちらが先かよくわからないが、こちらの作品の方が出版されたのが早いようだ)、面白いと思いながら読んだ。十兵衛に取り憑いている鬼も、美形の長髪の僧侶という設定になっていて、面白いと思った。この辺りは作者の好みなのだろうか。角川文庫キャラクター小説大賞も興味がわいたので、読んでみようと思う。