隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

戦場のアリス

ケイト クインの戦場のアリス(原題 The Alice Netowrk)を読んだ。

この本は、北上ラジオの第4回目で紹介されていた本だ。

本の雑誌 Presents 北上ラジオ 第4回 - YouTube

1947年七月、第二次世界大戦の傷が癒えつつある頃、十九歳のシャーリー・セントクレアは母親とニューヨークを旅立ち、スイスの ヴヴェーに向うはずだった。シャーリーは旅程を半ば強引にイギリスに寄港する航路にし、サウザンプトンについたその日に母親の目の前から消え、ロンドンに向かった。目指す先はハンプソン・ストリート10番地、ピムリコー。そこに、イブリン・ガードナーがいるはずだ。ロンドンについた時には夜になっていて、雨も強く降ってきていた。目指す家にたどり着いたのだが、そこにいたのは酔いどれの老女で、ピストルをシャーリーに向けてきた。そして、「ヤンキーなまりの嬢ちゃんがなぜ家に押し入ってきたのか説明しな」と詰問する。銃を握る手も、もう一つも手も、関節という関節はグロテスクに歪んていて、醜い瘤のようになっていた。シャーリーはそんな状況でもひるまずに、説明を始めるのだった。「従姉のローズ・フルニエが戦争中にフランスで行方伊不明になりました。あなたなら、彼女を探す手がかりをご存じかもしれないのです」

このような出だしで始まるこの物語は、シャーリーの視点で語られる1947年の物語と、イブリンの視点で語られる1915年の物語が交互に現れて進んでいく。シャーリーは戦争から帰ってきた兄が自殺したことにより、戦争中に行方不明になった従姉を何としても助けたいと強く思うようになっていた。一方のイブリンは酒が手放せないようで、何かの悪夢に取り憑かてれいるようだ。実はイブリンはフランス語、英語、ドイツ語を巧みに操ることができ、1915年にスカウトされ、フランスのリールで対独のスパイ活動に従事していたのだった。彼女が属していたのがアリス・ネットワークと呼ばれるスパイ網で、これが英語の原題のタイトルになっている。全く異なるバックグラウンドを持つこのシャーリーとイブリンがいつしか同じ目的に動かされていくことになる。

このアリス・ネットワークは中心となっていた女性のコードネームのアリス・デュボアからなずけられたようで、アリス・デュボアことルイーズ・ド・ベティニは実在の人物だ。作者のあとがきによると、本書の中のアリスに関するエピソードは実際に起きたことを基に書かれているようだ。もちろんイブリン・ガードナーは架空の人物なので、この二人のエピソードは作者の創作ではあるが。しかし、このような女性がいたことは全く知らなかったので、驚きだ。興味を持ったので、更に詳しく知りたくなったのだが、ちょっと調べた限りでは日本語の本はないようだ。残念。

本書は文庫本で650ページになる大作だが、ストーリーの先が知りたくなり、一気に読み進めた。確かにこれは読みごたえがある、面白い小説だった。