隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

時間は存在しない

カルロ・ロヴェッリの時間は存在しない (原題 L'ordine del tempo)を読んだ。本書は難解だ。そのことをわきに置いておいても、日本語タイトルがミスリードだ。日本語のタイトルは「時間は存在しない」となっているが、まず筆者が言っているのは、我々がずーとイメージしている、不変で、一定の時間というのは存在しないということだ。これはアインシュタイン相対性理論により既に指摘されているので、この部分はそんなに不思議な話ではない。次に著者が指摘するのは、時間に過去から未来へというような方向がないということだ。20世紀の物理学で導かれた方程式では未来と過去を区別することはできないと指摘する。この辺りもなんとなくわかる。tが-tになっても、式が成り立つのだから、現実にそのようなことが起きる・あるかどうかは置いておいて、式を満足させるために「時間の向き」は必要ない。ただ、エントロピーだけが不可逆で、増大する方向にしか進まない。このことだけが時間に向きを与えているというのだが、過去がエントロピーが小さく、未来が大きいのは、我々が正確に観測できないからだというのだ。この辺りから理解が怪しくなってしまった。更に、筆者の提唱しているループ量子重力理論では時間は量子的に表現され(そう、時間がないとは言っていないのだ)、最小の時間はプランク時間と呼ばれ、10-44だという。

もう一度、タイトルに戻ると、原題は「時間の順序」という意味で、「時間は存在しない」とはなっていない。なんせ、著者もプランク時間を持ち出しているのだから、時間自体は存在するのだろう。著者が指摘しているのは、我々が思っている(あるいは、思っていた)ような時間が存在していないということだ。本書の著者は理論物理学者なのだが、本書においては数式は1つしか出てこず、著者の提唱するループ量子重力理論を学術的に説明する本ではない。明らかに読み物だ。なので、内容は物理学にとどまらず、なぜ我々が時間というものを感じるかということにも考察を加えていて、哲学的な面もふくんでいる。

残念ながら、背景となる知識が絶対的に不足しているので、内容に関しては半分も理解できたかどうか不明だ。