隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

燃える川

ピーター・ヘラーの燃える川(原題 The River)を読んだ。

この作品は北上ラジオの第29回で紹介されていた。
ピーター・ヘラー『燃える川』の山火事の描写におののくぞ!【おすすめ本/北上ラジオ#29】 - YouTube

この小説の主要な途上人物は非常に少なく、6人だ。そのうちウィンとジャックはダートマス大学生に通う親友で、夏の学期を受講しないで、アウトドア講座のインストラクタのバイトをし、得られたバイト代でカナダ北東部にカヌー旅行に出た。川をカヌーで下っていくうちに、彼らは山火事が近づいているのに気づいた。まだ、距離はあるが、確実に近づいてくるだろう。山火事を目撃した翌朝、川の中にある島でキャンプする男二人に出会った。彼らは酔っぱらっていて、まともな会話が成り立たなかった。火事のことを伝えたが、まともに取り合おうともしない。彼らの無事を祈って、別れた。山火事を確認してから3日目、霧が出てきた。カヌーを漕いでいると、男の叫び声と、女の甲高い声が聞こえてきた。どうやら争っているようだ。カヌーに乗る二人からは、人影はおろか、陸地も見えなかった。

その後二人は、滝の所でポーテージ(カヌーの陸送)のために止まっていると、上流からカヌーがやって来た。フラフラして、進路がおかしい。口笛で合図して、ようやく正しい進路に入り、岸に辿り着いた。男が一人で漕いでいた、パニックにあったのか放心状態だ。詳しい話を聞くと、妻が行方不明になったという。二人は心配になり、装備の一部をそこに残し、上流に探しに行くことにした。言い争いを聞いた辺りで人を探すと、怪我をしている女性を見つけた。重症のようで、言葉がしゃべれないようで、詳しい話は聞けなかった。

人を疑うことを知らないウィンは熊に襲われたのだろうとか、あの酔っ払いの2人じゃないかと言うが、用心深いジャックはあのカヌーの男が怪しいという。女性を自分たちのカヌーに乗せて、滝の所に戻ると、残しておいた装備はズタズタに引き裂かれて散乱し、予備の食料も失ったことが分かった。そして、あのカヌーの男もいなくなっていた。

ここに至って、ウィンとジャックは後ろからは山火事が迫り、十分な食料もなく、前には男が待ち伏せているかもしれないという状況に陥ることになる。そして、果たして女性にけがを負わせたのは、あのカヌーの男なのかどうなのかというミステリー的は趣向も加わってくるのだ。ただ、ミステリーではない。何せ登場人物は6人しかいない。ウィンとジャックと女性を除くと、残り3人で、これではミステリー的面白さはないだろうし、誰も積極的に何が起きたかを調べようともしないのだ。川下りとか、山火事が襲ってくるところの描写はすごいと思うのだが、詳しくは書けないが、この結末はどうなのだろうと首をかしげてしまった。これでは善良な人間に降りかかる不幸の物語ではないか。