隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

ゴールデンタイムの消費期限

斜線堂有紀氏のゴールデンタイムの消費期限を読んだ。

何の前知識もなく読み始めた。様々な分野から天才少年・少女がどこかの山奥の山荘に「レミントン・プロジェクト」のために集められてるところから物語が始まる。主人公の綴喜文彰は高校生小説家なのだが、最近不調気味で小説が書けなくなっていて、このレミントンプロジェクトに参加することで、もう一度小説を書けるようになればと希望を抱いて参加した。実は集められたのは元天才であり、最近は目立った活躍をしていないことが割と早いところで明かされ、「レミントン・プロジェクト」ととはAIによる元天才の再生プロジェクトであることが明らかになる。綴喜文彰に与えられた課題はAIが作成したプロットに従って小説を書くことなのだが、行単位の細かさで、各内容が指示されていた。そして、その内容がミステリー風で、登場人物も今回プロジェクトに参加している各メンバーをモチーフにしていると思われる設定になっているので、これはメタ構造的なミステリーに展開していくのかと思ったが、そうはならなかった。

amazonのページを見ると、著者の「特別でなければ居場所がないと思っていた高校生の自分に向けて書きました」というコメントが載っていて、その意図の基に書かれているので、これは純粋に青春小説だろう。才能に消費期限のようなものがあるとは思えないが、若くして何かの才能で注目されると、才能の枯渇という恐怖心のようなものが湧いてくるというのは想像がつく。また、著者が書いたコメントのように、なりたいものがあるのに、未だ何物にもなれていない状況も、また息苦しく、出口の見えないトンネルの中にいるような気がすると言うのも想像がつく。最初は楽しくて始めたのに、周りから過度な期待を寄せられて、プレッシャーにつぶされることもあるだろう。でも、人生の先は長く、自分が最初は好きだったものが、いつの間にかそうではなくなることもあり、どこかで違うものに移っていくというような決断は必要なのだ糖と思う。