隠居日録

隠居日録

2016年(世にいう平成28年)、発作的に会社を辞め、隠居生活に入る。日々を読書と散歩に費やす

廃遊園地の殺人

斜線堂有紀氏の廃遊園地の殺人を読んだ。X県Y市の天衝村に建設されたテーマパークのイリュジオランドはある事件がきっかけとなり、正式オープンされる前に閉園が決まってしまった。その事件とは地元住民を招いて開かれたプレオープンの時に銃乱射事件が発生し、4人が死亡し8人が重軽傷を負い、犯人の男はその場で自殺してしまった事件だ。イジュウジオランドは一体で開発される予定のイリュージオリゾートの中核となるはずのテーマパークであったが、事件発生を受けイジュウジオランド閉園が決定し、イリュージオリゾートも白紙となった。イジュウジオランドは廃墟マニアの富豪の十嶋庵により買収されたが、十嶋は跡地を封印し、朽ちるに任せてから20年が経過していた。それがどうしたことか、20年ぶりにイジュウジオランドに人を招待して招き入れようというのだ。

今は誰も足を踏み入れることのない、この美しも悲しい場所を共有できる完成を持った方、かってイリュージオランドで夢を形作ろうとしていた方、是非ともご応募ください。

特設サイトにはそんな文字が躍っていた。廃墟マニアの眞上永太郎はこれはまたとない機会だと思い、早速応募すると、幸運なことに選ばれたのだ。そうして、かってのイジュウジオランドにはいわくありげな9人の男女が集まったてきた。その当時この事業を推進した者、このテーマパークで働くことになっていた者、廃墟マニア、廃墟雑誌の編集長、「廃墟探偵」シリーズの作者である小説家などなど。みんなが集まった最初の日にこの廃遊園地のオーナーの十嶋は「このイリュウジオランドは、宝を見つけたものに譲る」というメッセージを送ってきた。彼らはそれぞれの思惑を心に秘して宝探しを始めるのだが、二日目の朝に第一の被害者がテーマパークをぐるりと囲む高さ12メートルもある鉄柵に串刺しとなっているのが発見されるのだった。

この廃遊園地に集められたものは「宝」探しが終わるか、宝の探索の放棄しない限り外部には出れないし、外部から中には入れないのでクローズドサーキットの状況になっている。これ以外はひねった設定はない。読み前は何か特殊設定でもあると思ったのだが、それは単なる憶測だった。第一の殺人事件後、警察を呼ぶと「宝探し」も中止となるという事から、彼らは警察を呼ばず「宝探し」を続行することになるのだが、この状況が終わったら、ミステリとしては成り立たなくなってしまうから、それは物語の都合なのだろう。当然今回の事件と20年前の銃乱射事件とは関係しており、20年前の事件に関しては作者の二重、三重のミスディレクションがあるので、登場人物の言葉をそのまま信じることはできない。ミステリとしては正統なつくりだと思うのだが、どうもこの廃遊園地のオーナーの十嶋という人物がよくわからない、特に、なぜ20年も経って人を集めて宝探しなどを行わせたのかというのがわからないので、読後にモヤモヤが残る。これも物語の都合なのだろうか?